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しばらく元職場の前で打ちひしがれた後、「‥‥とにかく、仕事探さなきゃ」と、どうにか自分を叱咤して立ち上がり、郁は吉福寺の駅に向けて歩き始めた。
どこかWiFiの使えるところに入って、求人サイトを片っ端からチェックして、即日払いとかの単発バイトを探して‥‥でも、滞納分の家賃まで払えるような高時給バイト、そうそうあるとは思えない。
――――もうここは、臓器売買とかに手を染めるしかないのでは――――それか、水商売?
一瞬、華やかな夜の世界を頭に思い浮かべて、郁はすぐにそれを打ち消す。
――――私が雇ってもらえる訳ないよね。「お前なんて、男から一生相手にされない」って、父さんもよく言ってたじゃない。
脳裏に蘇ってきた、父からの言葉の暴力に、一瞬ぶるっと身震いをする。
気を取り直すように、郁は自分の頬をパンパンと叩いた。
「余計なこと考えてる時間ない!貧乏暇なし!」と、自分を鼓舞するように声をあげ、再び歩き出した。
土日は人で賑わう商店街も、平日の夜は人通りも少ない。
ここから一番近いWiFiスポットは―――と考えつつ、速足で歩いていた郁は、路地裏に見えた人影に、思わず足を止めた。
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