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「‥‥‥‥?」
商店街から大通りへと続く、細い路地裏。
街灯の下、まず目に入ってきたのは、大柄な男の後ろ姿。
その立ち方は、どこか不自然さを感じさせるものだった。そして、もう汗ばむくらいの夏の気候にもかかわらず、長いロングコートを着て、その前を広げて立っている。
数歩近づいてみると、男と向かい合う形で、セーラー服姿の、中学生らしき女の子が立ち尽くしている。
その顔は真っ青で、唇をわななかせて、泣きそうな様子だ。
もしかして、と思い、足音を立てないようにしながらさらに近寄ってみると、思った通り。
コートの下、男は全裸で、自分の下半身を女の子に見せつけているところだった。
「‥‥最っ低。露出狂?こんな小さな子相手に何やってんの?」
男の背後から、低くそう呟くと、男はハッとしたように郁のほうを振り返り、慌てて商店街のほうへ走り出した。
「‥‥待て――――!!変態!!」
そう叫びながら、全速力で逃げる男を追いかける。
郁も運動神経には自信があるのだが、男も足が速く、なかなか追いつくことが出来ない。
これ以上離されたら追いつけない、と焦っていると、男の進行方向から、メガネをかけた背の高い男性が一人、ゆったりと歩いてくるのが見えた。
「‥‥すみません、そこの方!!そいつ痴漢なんで、ちょっと止めてください――――!!」
郁がそう叫ぶと、メガネの男性は「えっ」と驚いたように足を止めた後、慌てた様子ながらも、男の行く手を阻むように腕を広げた。
男がもたついて速度を落としたので、どうにか追いつく。
追いつくことさえ出来れば、あとはどうにかできる自信があった。
「‥‥‥‥うりゃぁっ!!」
男のコートを掴み、思い切り背負い投げをかます。
不意の攻撃に、男はなすすべもなく、地面に転がった。
転がった表紙に、コートから男の下半身がチラ見えしたので、郁は眉を寄せ、思い切り急所を踏みつけた。
―――中学・高校と、部活で続けた柔道が、こんなところで役立つ日が来ようとは。
もう引退して数年経ってしまったけれど、まだ腕はなまってないみたいだなと、郁は少しほっとする。
「‥‥すみません、ありがとうございました。‥‥あの、もし携帯お持ちでしたら、警察呼んで頂いても‥‥?」
男の苦悶の叫び声も気にせず、メガネの男性に微笑みかけると、男性は呆気にとられたように、「あぁ‥‥えぇ、もちろん」と、携帯を取り出した。
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