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 卒業して三人とも法曹(ほうそう)になり、十年以上が経った。恵比寿大学法科大学院から、全卒業生に同窓会の案内が来る。卒業生で活躍している法曹(ほうそう)が後輩達に、現場の実体験を話すことになった。  楓中(かえでなか)は、大手法律事務所勤務だ。某県の支店長で数人の弁護士を部下にしている。案内に目を年ながら岸辺(きしべ)は思わず、歯噛みしながら、吐き捨てるよう言い放つ。 「口先だけの奴。やっかみ野郎、世に憚るか……、人を一から百まで好きってあるの? 長所があるから短所を大目に見れるんだよ」 「あなた、人の悪口を言うのはやめてよ」  岸辺(きしべ)は、自宅リビングのソファーで案内に目を落とす。妻から注意された。妻は隣の部屋で、書類仕事をしていたのだ。 「(あおい)、ごめん」  国江(くにえ)(あおい)は結婚して姓が変わり、岸辺(きしべ)(あおい)となっている。  裁判官をしている岸辺(きしべ)にも、事前に講演の依頼があったが、多忙を理由に辞退した。  明日は、民事裁判の判決日だ。原告側代理人が国江(くにえ)で、被告側代理人が楓中(かえでなか)だ。日本国憲法76条にのっとり、公平に判決を下すのみだ。  妻だから、嫌いな人間だからで、判決を変えたりしない。  岸辺(きしべ)は、法廷でもマイクがいらないくらい声が大きいのだ。裁判所の職員からも、岸辺(きしべ)さんは良い人で声が大きい、と有名だ。(完)
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