4人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
卒業して三人とも法曹になり、十年以上が経った。恵比寿大学法科大学院から、全卒業生に同窓会の案内が来る。卒業生で活躍している法曹が後輩達に、現場の実体験を話すことになった。
楓中は、大手法律事務所勤務だ。某県の支店長で数人の弁護士を部下にしている。案内に目を年ながら岸辺は思わず、歯噛みしながら、吐き捨てるよう言い放つ。
「口先だけの奴。やっかみ野郎、世に憚るか……、人を一から百まで好きってあるの? 長所があるから短所を大目に見れるんだよ」
「あなた、人の悪口を言うのはやめてよ」
岸辺は、自宅リビングのソファーで案内に目を落とす。妻から注意された。妻は隣の部屋で、書類仕事をしていたのだ。
「碧、ごめん」
国江碧は結婚して姓が変わり、岸辺碧となっている。
裁判官をしている岸辺にも、事前に講演の依頼があったが、多忙を理由に辞退した。
明日は、民事裁判の判決日だ。原告側代理人が国江で、被告側代理人が楓中だ。日本国憲法76条にのっとり、公平に判決を下すのみだ。
妻だから、嫌いな人間だからで、判決を変えたりしない。
岸辺は、法廷でもマイクがいらないくらい声が大きいのだ。裁判所の職員からも、岸辺さんは良い人で声が大きい、と有名だ。(完)
最初のコメントを投稿しよう!