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「来年合格するのは一人だけ!『どうしてこの人が不合格だったんだ』と、私達教官が思う学生が、毎年一人は運悪く落ちる。来年合格するのはその一人だけです」  今年の司法試験を受験する百人ほどを前に、大垣(おおがき)主任教授が発破をかける。大垣は黒い口髭(くちひげ)に手をすがえていた。国家試験前に行われる、司法試験合格組教員達が体験談を披露する。  三十歳になったばかりの岸辺(きしべ)直志(ただし)も真剣な表情で、尊敬する大垣(おおがき)の言葉を胸に刻む。広い教室内で一緒に座っている人は、二十台が多数だ。一週間後に迫った、年一回の司法試験に全力で臨む学生や卒業生達だ。  ここ恵比寿(えびす)大学(だいがく)法科(ほうか)大学院(だいがくいん)では、幾度も国家試験模擬試験が行われた。成績上位者は、廊下に氏名が張り出される。岸辺(きしべ)直志(ただし)は模擬試験の成績は、毎回上位十位以内だった。  岸辺(きしべ)の法科大学院での同級生で異性の友人、国江(くにえ)(あおい)は、人がごった返す休憩室で岸辺(きしべ)の隣に座っていた。大学卒業後、即入学したので二十台であった。 「岸辺(きしべ)さん、わたしは明日から自宅で猛勉強します」 「僕は司法試験の前、一週間は勉強しない。大垣教授が国家試験前は、一週間頭を休めて一発で合格したのを見習う」 「ふぇ? え? わ、わたしは前日まで猛勉強します」 ***
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