第1章 少年王

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「さあ、お時間です」  侍従長が扉を叩き、〈少年王〉は内側からそれを開く。 「お支度は整いましたか? 民は陛下のお姿にこそ希望を見るのですから、こうして毎日お顔を見せることは大切な王の責務です」  そんなことわかっている。〈少年王〉がうなずくと、髪にかけた薄く透ける絹が揺れ、織り込まれた細かな宝石がきらきらと煌めいた。〈少年王〉は、毎日午後の同じ時間に王宮のバルコニーに立つ。これは、王に課された勤めのうち二番目に重要なものだ。  毎日昼間の短い時間だけ宮殿の庭が民衆に開放され、あふれんばかりの人々が〈少年王〉の姿を一目見るために集ってくる。彼らは王であり神である〈少年王〉の姿を目にするだけで利益があり、祈りや願いを投げかければその神通力によって叶えられるのだと信じている。  人前に出るときは常に美しくあるよう求められるから、侍女達は毎日午前中に数時間もかけて〈少年王〉を風呂に入れ、髪に櫛を入れ、きらびやかな衣服を着せる。たくさんの女性に囲まれて、裸の体をこすられたり人形のように衣服を着せ替えられたりすることは、本当は好きではない。ただ、それを口にしたところでどうせ「慣習です」と一蹴されてしまうだろうから、彼はすっかり諦めてしまっていた。 〈少年王〉の衣服。それは、彼の姿を見るために集う人々が決して一生触れることもないような軽くて柔らかく美しい布を潤沢に使って作られている。 〈少年王〉の王冠、そして腕輪や足輪やさまざまな装飾品。それは、たったのひとかけらで人々が数年も暮らせるかもしれない金や宝石を潤沢に使って作られている。 〈少年王〉は贅沢な品々を当たり前のように受け入れ、一切の疑問を抱かずにきた。なぜなら彼はそれ以外の暮らしのありようを知らなかったからだ。  だがそれも、彼の治世がはじまって以来の干ばつが起こるまでのことだった。最近では、バルコニーの下に集う民衆は少し数が減り、その表情もずいぶん暗くなったような気がする。以前は賑やかに王の健康と国の繁栄を祝福していた彼らの声が、最近では雨と恵みを懇願するものへと変化してきた。  さすがに罵声こそ聞こえないが、飢えて渇いた人々が豪奢な姿をどう思っているのか〈少年王〉は密かに気にしている。
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