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まったく抵抗しない〈少年王〉の体を兵士が数人がかりで十字に組んだ木材にくくりつける。その横で宰相が高らかに「〈少年王〉が焼かれる理由」を宣言した。
「我らが王は、この十五年近く国を守り治めてくださった。しかし残念ながら王の心は汚れた。彼はもはや我らの守護者ではなく、神でもなく、我らが国そのものでもない。彼が心を悪に預け、醜く野蛮な獣と密通し、それにより我らに長い干ばつとそれに伴う苦難をもたらしているのだ。よって昨日王都の民の総意で決定したように、今、我々は王を焼く」
力強い言葉に、観衆の側から大きな歓声が上がる。
「そうだ、王を焼け」
「早く火をつけろ!」
積まれた薪の真ん中に磔台が立てられる。
それでも〈少年王〉の表情はぴくりとも動かなかった。不安定な格好で磔にされているので少し苦しそうではあるが、特段苦痛の声を上げることもなく感情を失った目でぼんやりと彼の民を眺めている。
あの美しい目が光を失っていることは〈王殺し〉にとってはひどく悲しいが、一方でまさに今、人々が歓喜の声を上げて着火の瞬間を待ちわびているところを〈少年王〉本人がはっきり認識できないのだとすれば、それは救いなのかもしれない。
着火の役は筆頭賢者に任されているようだった。衛兵隊長が持ってきた明るく燃え盛る松明を受け取り、頭上に一度高く掲げてから、ゆっくりと薪の山に近づける。
——今だ。今しかない。
その瞬間【王殺し】の後ろ足はかつてない強い力で地面を蹴った。のろまな衛兵たちが反応できない風のような速さで礫台まで走り、力の限り筆頭賢者に体当たりを食らわせた。
「うわあっ」
老人が情けない声を上げて倒れ、松明は地面に転がる。〈王殺し〉は立ち止まることなく十字架に駆け寄り、まずは〈少年王〉の足首を縛り付ける縄を噛み切ろうとした。
しかし幾重にもきつく縛られたそれは、鋭い獣の牙で噛み付いたとしても簡単にはちぎれてくれない。同時に十字架自体を倒そうと前脚で必死に木材を揺さぶるが、こちらも思ったようにはいかず、間もなく背中に鋭い痛みが走った。
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