最終章 王殺し

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 たどり着いた森には見覚えがあるような気もしたし、はじめてくる場所であるような気もした。どっちだって構わない。たとえどんな場所だろうと、〈少年王〉と一緒であればそこは〈王殺し〉にとってまったく違った景色に見えてくる。  激しい雨はまだ降り続いている。王宮にいるときはいい目隠しになってくれたが、今となっては〈王殺し〉は、背中の〈少年王〉の体がこの雨のせいで冷え切っているのではないかと気がかりでたまらない。  森の暮らしに慣れた者特有の勘で人ひとりと獣一匹がはいれるだけの洞穴を見つけた。傾斜しているのか、少し奥に進めば地面が乾いている。 〈少年王〉を降ろし、その傍らに寄り添う。どちらの体も冷え切っているが、ばらばらにいるよりは寄り添っている方がまだ少しはましであるに違いない。  そうして少し落ち着くと、〈王殺し〉は急激に痛みと寒気に襲われはじめた。逃げるのに夢中で忘れていたが、後ろ脚や尾はひどく焼け焦げ、ところどころ黒い毛が剥がれ落ち火傷で赤く腫れ上がった皮膚が見えている。それに加えて背中には衛兵に槍で刺された傷もある。  よく見ると〈王殺し〉の背中にずっとしがみついていた少年王の衣類も、あふれる獣の血でべっとりと汚れていた。 「ひどい怪我。どうしよう」  動転して立ち上がろうとする〈少年王〉を〈王殺し〉は服の(すそ)を噛んで引き留める。この少年だって疲れ果てている、こんなひどい雨の中、疲れ果てた体で外に出たところで医者などいるはずもないし〈王殺し〉を救えるはずもない。そんなことよりも今は、ここで一緒にいてくれるほうがずっといい。  喉を鳴らして甘えるように側頭部をすりつけると、気持ちが伝わったのか〈少年王〉はぺたりと座り込んで、ぎゅっと抱え込んだ頭に頬ずりをした。  できることならば人間の声でありがとう、と言いたかった。  出会えたこと、優しくしてくれたこと、今一緒にいてくれること。〈少年王〉は何度も〈王殺し〉へ感謝の言葉を伝えてくれた。だが、その何倍、何十倍もの気持ちが〈王殺し〉からあふれ出していることは伝わっているだろうか。誰かと一緒にいたいと思うこと、誰かを愛おしいと思うこと、そして生きる意味を教えてくれたことへの深い感謝が。 「ねえ、血が止まらないよ」  じわじわと新しい血が滲み続ける〈王殺し〉の背中を手のひらで押さえながら〈少年王〉は泣きそうな声を出した。  笑ってくれ、と〈王殺し〉は低いうなり声で訴える。そんな悲しそうな顔でなくて、見たいのは笑顔だ。しかし〈少年王〉はどうしても笑ってくれない。
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