最終章 王殺し

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 この少年は何を言っているのだろうか。まさか、この姿を見ただけであの獣だと気づくはずなどない。なのに〈少年王〉は自信に満ちた顔で立ち上がり、〈王殺し〉の腕を引き軽くしゃがませると正面から目をのぞき込んできた。 「君だってわかるよ。だって、こんな灰色の目、他に見たことないもの。この髪だって、同じだ」  頭に手を伸ばし黒く硬い髪を撫でる手は優しくて、〈王殺し〉は獣の姿でいたときと同じようにうっとりと酔いしれた。それでもどうしても不安が拭いきれず小さな声で「見ないでくれ」とつぶやく。 「どうして?」  無邪気に訊き返す少年が少しだけ憎らしい。〈王殺し〉は正直な気持ちを口にした 「俺は醜い。獣の姿でも醜かったが、人の姿でいても、こんなに不恰好で……お前のような美しい人間とは……」  しいっ、と〈少年王〉は〈王殺し〉の唇に人差し指を当てて、囁いた。 「そんなこと言わないで。君の灰色の目は、僕が今までに見てきた何よりもきれいなのに」  魔法にかけられたような気分だった。あの不思議な声にかけられた魔法は解けたのに、この少年はいとも簡単に〈王殺し〉に新しい魔法をかける。  この世で誰に醜いと罵られても、彼がこの目を美しいと言って気に入ってくれるならばそれで構わない。彼がもしも自分を——愛してくれるならば、この世の他の人間すべてから疎まれ嫌われたって構わない。 「……ありがとう。俺に優しくしてくれて」  ずっと言いたくて言えなかった言葉を〈王殺し〉はやっと口にして、目の前の少年を二本の腕で思いきり抱きしめた。
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