最終章 王殺し

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 銀色の髪に顔を埋めると、そこからは嗅いだことのないようないい香りがした。〈王殺し〉が思ったままを告げると〈少年王〉は「香油だよ」と言う。 「女官たちが、風呂上がりにあちこちにつけたんだ。髪を()くときにも使ったからきっと一番強く……あっ」  もちろん〈王殺し〉は香油なるものが何であるのかよくわからない。ともあれ、あちこちにと言われれば確かめたくなり〈少年王〉の耳の裏に鼻先を擦りつける。くすぐったいのか〈少年王〉があげる小さな叫び声は、あのとき祈りの間で耳にした悩ましい声にも似ていて〈王殺し〉は腰のあたりに不謹慎な衝動が生まれるのを感じる。 「あっ……それは、くすぐったいから……だめ」  だめだ、いけない。わかっているのに止まらない。ただ鼻をくっつけていただけだったのが、甘い香りに誘われるように舌で耳を舐め、唇は首筋を伝い、思わずのけぞった青白い喉にくっきりと浮き上がる骨の形をなぞる。 「本当に、どこからもいい香りがする」 「ああっ、ん」  その声に歓びが混ざっているのを確認し〈王殺し〉の情欲にも本格的に火がつく。だが、それは同時に〈少年王〉をひどいやり方で辱めた記憶を呼び起こすことでもあった。怪しげな煎じ薬でおかしくなって〈少年王〉に覆いかぶさり狭い場所をこじ開けた。あのとき少年は苦痛の声をあげ、受け入れた場所からは赤い血が流れた。 「あの、何をっ」  軽々と体を持ち上げられ、地面にうつ伏せるかたちに横たえられた少年が動転するのも気にせず、衣の裾をめくりあげた〈王殺し〉はずっと気がかりだった場所を目の当たりにした。 「嫌っ。そこは見ちゃだめ」  脚をばたつかせる〈少年王〉を柔らかい力で押さえ込み、薄く小さな尻の真ん中で震える窄まりをじっと見つめる。力での抵抗に意味がないことに気づいた〈少年王〉はただ恥辱に耐えることにしたようで、じっと黙りこんでいた。  小さな襞の数ヶ所には痛々しく裂けた傷跡が残っていた。これは他の誰でもない〈王殺し〉自身がつけた傷だ。〈少年王〉の痴態にどうしようもなく興奮して、十分に慣らしもせずに獣の性器をねじ込み、射精するまで激しく揺さぶった結果だ。  申し訳ない気持ち、いたたまれない気持ち、もちろんそれに興奮も上乗せされる。〈王殺し〉は無骨な指先でそっと襞に触れた。そこがひくりと震えるのは驚きか、それとも誘っているのか。思わずそっと唇を寄せて傷跡に舌を伸ばした。
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