第6章 王殺し

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 夜の魔法は解け〈少年王〉の気まぐれは終わったのだろう。朝の光の中ではっきりとこの禍々しい獣の姿を目にして、少年は怯えて人を呼ぼうとしているに違いない。だったらその前に、ひと思いにあの首筋を——。  しかし〈少年王〉が次にとった行動は、思いもよらないものだった。 「いけない、もうこんな時間だ」  廊下から人々の足音や話し声が響いてくるのに気づくと〈少年王〉は突然〈王殺し〉を抱きかかえようとするかのように、その胴体に細い腕を伸ばした。しかしいくら痩せ細ったとはいえ少年よりもずっと大きく重い獣が手に負えるはずもなく、脚の一本を浮かせることもままならない〈少年王〉は狼狽した顔を向けてくる。 「危ないよ。君、ここにいるのがばれたらきっとつまみ出されてしまう」  そして自身の大きな寝台に駆け寄ると床まで垂れたシーツをめくり、その下の空間を指で示すと、意味がわからず立ちすくんだままの〈王殺し〉に懇願するような口調で語りかけた。 「お願い、ここに隠れていて。おとなしくしていればきっと大丈夫だから」  ほとんど同時に扉を叩く音がして、外から女官の「おはようございます陛下。湯浴みの準備が整いました」という声が聞こえてきた。なんと〈少年王〉は〈王殺し〉に、部屋に入ってくる人間から身を隠すよう言っているのだ。  見つかれば追い払われるか殺される。もちろんその前に〈少年王〉を食い殺すという選択肢もあるにはあるが、王殺しの約束を果たしたからといって瞬時に元の人間の姿に戻れるとは限らない。戻れたとして、首を噛みちぎられている〈少年王〉の隣に不審な大男が立っているところを見た従者たちが何を想像するかはわかりきっている。  とりあえず今のところ〈王殺し〉が身を守るには、〈少年王〉の言うとおりに身を隠す以外の方法はなさそうだった。王の寝台は大きく立派で、身を低く伏せれば獣の体でもなんとかその下に入り込むことはできる。 「よし、いい子だ」  おとなしく寝台の下に滑り込んだ〈王殺し〉に安心したような声をかけ、〈少年王〉はシーツを元どおりにした。ちょうどそれと同時にドアが音を立てて開き、複数の足音が部屋に入ってくるのを〈王殺し〉の鋭敏な耳は察知した。
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