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「うっ……………………」
揺れる視界と収まらない吐き気に座り込むとスアムが背中を撫でてくる。
「ご、ごめんね!でもある程度飛べるようになったね」
まぁ、確かに、そうかもしれないが思った以上にキツかった。だってグルングルン回るんだもん。そもそも狼のこの身体は飛ぶように出来ていない。
…………魔狼だからある程度成長すれば飛べるけど。
………ってここ何処?
周りを見渡すと神殿かのようなものが建っている。地面は普通に土だがここは島と言うべきだろうか、そこの端っこにいる。
島の外は空である。落ちたら死ぬ。魔狼なのに。
「ここが空の妖精が創った場所!色々な生物もいるしもちろん妖精もいるよ。通称"空島"」
まんまじゃねーか。いや、これは普通か?だめだ感覚が麻痺してる気がする。
よく見たら綺麗な噴水もあるし空島なのに所々綺麗な鉱石が生えてたりそこら辺の岩にも色々な鉱脈が……。
「空にもヒトは来るときは来るからね。結構危ないけど、それはもうどうしようもないからここにいる魔物とかで頑張って守ってる。少し他に比べると危険かな」
情報が多すぎて理解するのが大変だが理解しなくてもいい気がする。
その時スアムが再び抱き抱えてくる。2日間抱えられまくったし先程も抱えられてた。
しかし慣れない。恥ずかしい。
成体の雄なんです。ヒトでいう成人男性なんです。人化出来るし。あれは魔力消費もある程度するからあんまりしたく無いんだけどね。
「2人のところでも見たんでしょ?お客さんもてなしたり停めたり出来る場所。あそこいこっか」
「その前に離して……はずかしい………」
「誰も見てないでしょ?」
見てるよ。妖精とか魔物がめっちゃ見てるよ。
下手に体を動かしては爪が当たるかもしれないし暴れる事が出来ない。なので尻尾を必死に動かすが当然意味があるわけがない。
「かわいいなぁ」
ヤメテ!尻尾触らないで!!落ち着かないから!
「ほら、ここ」
着いた場所はいつも通りの場所。2回見たことがある。
よいしょっ、とベッドに腰掛けるスアム。その横に座る。
魔狼なのに狼にしか見えないなぁ、自分。と遠くに見える鏡を除き思う。
「エル、魔法は何が使える?」
「?……殆ど使えない。火魔法をほんのちょっぴりと水魔法も少しだけ」
料理なら出来るよ。
「エルはさ、妖精王がどんな種族だか知ってる?」
妖精王は妖精の王じゃないのか?妖精じゃないのか?
困惑する俺にスアムが頭を撫でてくる。
「妖精王は妖精じゃない。精霊なんだ」
その言葉に更に困惑する。精霊。せいれい。セイレイ。誰もが知ってるその単語。魔法を使うにあたって必要なそれ。
この世界では一番魔法を使うにあたって重要になるのは魔力量ではない。
魔法を使うには、精霊から力を借りるのだ。
先ず、自身の所持している魔力を精霊が欲するエネルギーに変換する。
そこで先ずエネルギーのロスが生じる。
そして、変換したエネルギーを精霊に譲渡する。ここでまたロスが生じ、精霊が対価として魔法を作る。
精霊がそれをこの世界に送り出す。またそこでロスが生じる。
その過程全てに於いていかに効率よくロスを減らせるかが重要なのだ。
「精霊とこの世とは隔たりがある。そこを通ることは困難だ。だから譲渡にもロスが生まれる。でも、その精霊が極稀に魔力を得て、その隔たりを超えてこちらの世界にこれる。それが妖精王」
つまりめっちゃ魔法使えるって事でしょ?何それすごい。
「……それ俺に話して何になるんだ?」
「いや、話をしてないと襲っちゃいそうになるからさ」
「………え?」
「他の2人にも襲われただろうに無防備に何の警戒もせず良くここに座れたね。そういうところ、可愛くて好きだなあ」
最終日。それ含め結局三日間全部襲われたがそのほとんどが記憶にないままだった。
どうしよう死にそう。
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