帰還

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 「あ、あるじ。そら、飛べるようになりました!」  そうだ。スアムに貰ったあの昨日の加護は一時的なものだったはずだが何故だか朝から飛べるようになっていた。殆ど気にしなかったが。  「それが、空の妖精王からの加護の一部か……」  「あるじ、加護とは何でしょうか」  「まさか加護を受けた事を自覚していないとは思わなかったがな。いいか、エル。加護は途轍も無く大きな存在にしか使えぬ魔法だ。その効果は絶大でその存在によって様々だが、空を飛べる、と言うのはその加護の効果の一部であろう」  ……え?そんな魔法かけられてたの?いつの間に?と首を傾げながら頭を回すがそんなタイミング1つくらいしかない。夜襲われてその後理由は分からないが、至って理由は分からないと主張するが意識がない間だろう。  ……しかし加護、か。聞く限り護られる事もあるだろうが、空を飛べるようになったのも考慮するとできるようになった事も増えたのではないだろうか。もしかしたら強くなれるかもしれない。  「ああ、1つ。あまり強さは期待しないほうが良いぞ。我の加護ならまだ分からぬが加護とは名の通り護りを与えるものだ。しかも空と森と海の妖精王の加護だ。強くなれる要素があるとは思えん」  俺は死んだ。 ーーーーーー  まあ、期待はしてなかったし。  そう自分を納得させながら階段を降りる。あるじによると、やらなければならないことがあるから取り敢えず少しの間またいつもの様に自由にしていてくれとの事だった。  じゃあいつもの場所に行こう。  そう決意し塔から出ると即座に身を屈め素早く走る。  ここは背を低く素早く、がこの島で暮らしてきた俺の学んだ上手く生きる方法だ。  想定通り赤い球体が俺の真後ろに着弾し破裂する。  「くそっはずした……」  「だせぇな。俺は当ててやる……ぜっ!」  この島は大きくはないがちょっとした森ならある。其方にかけていく。  五発程の水の塊が飛んでくる。ただの水では無いので当たったらかなりダメージが入る筈だ。  「避けてみろよッ!」  それを慣れきった感覚で上手く、他の魔物に比べたらそこまで大きくは無い体を上手く使い避ける。  他にも何発も飛んでくるが其れ等は全て避け森の奥の方に走っていく。  「くそッ!」  「これは……どうかなっ!」  背中を何かが掠めると全身に痺れが来る。掠っただけなのにかなり痛い。  だがそれに臆する事なく走る。掠っただけだ。  大体毎回3発から6発は受ける筈だが今回は殆ど避けることができ1発しか食らわなかった。というのも、何故か空気を今までよりも上手く読むことが出来るのだ。  しかも今回は数が少ないのもあったからだろう。いつもくらいの量が来て居たら確実にもっと当たって居ただろう。そのくらい俺は弱いのだ。何故少なかったのかは不明だが。  森に入った事で攻撃が止む。  いまだにあいつらは俺に攻撃を加えようとしてくる。まぁ、腐肉をくれるだけマシかなぁなんて思ってしまう自分が情けない。  薄暗い森をしばらく走ると大きな光が見えてくる。森の出口と海だ。その視界の端に小さな小屋がある。  その小屋に走ると四角い穴を通る。  ここにきたらひとまず安心のはずだが。  「よぉ。エルぅ?」  「……なっ!?」  そこには複数の魔物が居た。待ち伏せられて居たのだ。  「………っ!」  後ずさるがもう小屋の外にも居るだろう。完全に囲まれた。このままではまたかなり攻撃を加えられて酷い目に合う。殺される事はないが大変なことになるのは確定だ。
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