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サザン様が自分の茶髪を弄りつつ勇者の言葉を聞く。本来の真っ赤な目は魔法によって茶色に変えられて居る。その茶色の目は探るような目つきで勇者を見ている。しかしそれに気付かぬまま勇者は喋り続ける。
「魔王の戦力も、魔王自身の強さも詳細は不明だし……。あまり期待は出来ないだろうけどその情報を集めつつ、って感じかなぁ。仲間はこのくらいで充分だろうし、そろそろ魔王討伐に取りかからなきゃ。気を引き締めて頑張るよ」
にっこりと笑顔を崩さずサザン様は更に質問を重ねる。
「勇者様も大変ですね。私達の為に戦って下さって……ありがとうございます。所で、勇者様のパーティーはどのような方がいらっしゃるのですか?」
勇者はやはり人のいい笑顔でそれになんの躊躇いもなく答える。
「えっと……僧侶(プリースト)と、魔弓使い(マジックアーチャー)と、魔法使いと、ウォーリアーかな」
するとセフィと呼ばれたあのエルフ少女が反応した。
「わたしが魔弓使いですよね!ゆうしゃさま!」
勇者が困ったように答える。
「うん、そうだね」
サザン様の方を見ると、笑顔のままこちらに視線を向けてくる。
「……ありがとうございました、勇者様。貴重なお時間を私に使っていただきまして」
「いや、丁度緊張してて息が詰まってた所なんだ。話せて良かったよ」
サザン様はこちらを見ると「帰るか」と一言言う。此処に来た目的はもう達成されたのだ。
「おい勇者!今日のダンジョンについて少し意見があるのだが」
と、突然ローブに身を包んだいかつい男がやってくる。こいつがウォーリアーだろうか。2メートルはあるであろう巨体。顔に傷跡がいくつかあり結構怖い。威圧感が凄い。
「ああ、僧侶の君からの意見は尊重するつもりだけど、どうしたの?」
その発言は聞かなかったことにしよう。帰ろう。
そう言う意を込めてサザン様を見ると頷き、一緒にさっさと出て行こうとする。目的は達成された。
その時だった。
「おい。そこのお前」
明らかに、此方に向けられた声。敵意の篭った、威圧感の混ざる声。それを僧侶(仮)に向けられる。
「……なんですか?」
サザン様が振り返らずに答える。その横顔からは笑顔は消えては居ないが強い警戒心が生まれていた。
「お前からはーー魔族の匂いがする。そこの狼からは魔狼の匂いだ。サイズも普通だしどこを取っても普通の狼に見えるが魔狼だ。魔族と魔狼のペア…………。魔王の配下が、何しに来た?」
「逃げよっか」
サザンがさらりとそう言う。頷くと一緒に外に走って出て行く。
「あっ!おいっ!まてっ!!」
追い掛けてくる。此方に来る時と同じように背中にサザン様を乗せると、全速力で駆け抜けて行き、裏路地も活用し撒こうと走る。
先程と違うのは気温だ。少し中にいただけなのに相当寒くなっている。
「待ちやがれェッ!」
あいつ本当に僧侶か?早いし見た目も僧侶じゃない。あんな僧侶見たことねーよ。
しかし更に驚いたのは勇者だ。僧侶よりも遅く追いかけ始めたのにも関わらず僧侶よりも距離を詰めてきている。怖。
「エル!早く!」
「無茶言わないで下さいィアァァッ!」
「あ、やっと喋った」
「うるさいぃっ!っ!今逃げてるんですよ!!」
しかしこれでも魔狼の端くれ。素早さで負けては居られないのだ。速度をぐんぐん上げて行く。
街の門が見える。そこを抜けると草原が広がってる筈だ。その先には海があり左に進むと海と地面の境界が崖になっていき、森も広がり始める。
森に入ればさすがに追い掛けてこないだろうと思い取り敢えずこの街から出ることを優先しようと門に向かう。
雨は先程よりも酷くなっており、遠くで閃光と共に大きな音が鳴る。雷だ。
「速度上げて〜!くるよ!」
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