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(side現魔王)
自室の椅子に座り右手の魔王紋を眺めると、ため息をつく。
紅茶を1口飲むと酷い雑味がして、思わず顔を顰める。
最近ずっと落ち着かない。絶えずクライやエルのことを考えて居るからだろう。
あの人の名前の理由も、最近知った。
大体の全体図も、目的も見えてきた。
果たして、ちゃんと全てを集結させられるのか。
そうは思わなかった。真実は人を混乱に陥れる。しかもどこかでいつか、知られてしまうだろう。
そうなったら魔の王がどのような決断を下すのか、まだ分かりはしない。
今の魔王は現魔王を打ち倒し魔王の座を奪い取ったが、そこからが焦りすぎた。クライが勇者になったと知り、焦りと喜び半分で行動を急ぎすぎた。
まぁ、適切と言えば適切だったかもしれない。今となっては戻れぬ過去の話、どうにも出来ないのだが。
魔王や勇者になると名を奪われるが、それはあくまで今までの全ての関係を断ち切る意味で必要なのであって、一旦奪われればその強さの保持も名前をあとから付けられたとしても保証される。
ただ、勇者の場合は呪いに近いし、あまり名をつけるという行為は聖剣にとっては好ましくない状況なのだろう。
周辺には「名」について詳しいものは人間の中ではほとんど居ないだろうし、その心配は普通ならば無いはずだが。
全ての正確な真実は今の魔王しか知り得ない。だからこそ、本当に聞いた事が真実なのか判断を付けにくいのだ。
魔王という座をなぜ欲しがったのか、やっとわかったのだ。
何か出来ることが無いのが心配ではあるが、成り行きに任せよう。
再びため息をつくとドアがノックされる。
入るよう軽く促すと魔王になってから初めての親友がやってくる。
「炎明柱…」
「お久しぶりです!!」
相変わらず叫ぶとうるさい…というか常に叫んでいるがまぁ悪いやつではない。
「久しぶりだ」
「また考え事か!!!あの事についてですな!!?」
こくりと頷く。4柱は唯一教えられているが、あまり本人達には必要のない情報だろう。
「久しぶりと言ってもそんな時間はたってませんがね!!」
「でも、話し相手は欲しかった」
他愛の無い話をゆっくりするのもいいだろう。カフエルという人物はうるさいが故にゆっくり出来るかは疑問ではあるが。
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