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(sideクライ)
「…………結局1人で戻ってきたのか」
半ば諦めのような感情を込められた声でそう言われて、少しだけ何かに対して多少の違和感を感じるが諦めの感情が呆れにも似ていてそれよりも怒りの方が勝る。
だから第一声はこうだ。
「アホ魔王」
どんな反応をするのか、顔を見る。こんな幼稚な悪口にキレられてもそれはそれで困るのだが少しでもリードしたいじゃないか。
でも魔王は、子供を見るかのような目でこちらをじっと見つめ動かない。もう少し反応をくれたって良いじゃん!
「なんか反応しろよ!」
するとクク、と笑い「可愛いな」と一言。死ねばいいのに。
思わず反論とかの前に顔が赤くなってしまって顔を背けると「話し合いはここじゃなくて別の場所だ」と言われて魔王の自室から出ると階段をおりていく。
2番目に高い塔へと歩いていくが、1番高い魔王の塔からは1番離れているようでかなり時間がかかるそうだ。
「遠いからカフエルからこっちに来る事は殆ど無い」
「こっち、って魔王の塔?でもそれ部下としてどうなの…?」
「下手に集めると幹部同士が出会う」
それだけ言うと何も言わなくなってしまう。幹部同士が会うとアウトな事になるのか。仲悪いって事なんだろう。
まぁ何だかんだで塔に着くと、ひとつの部屋のドアの前に歩いていき、中の至って普通の、むしろ小さいくらいの部屋に入ると2人で座る。
「ここの方が落ち着く」
そう言われて周りを見渡す。飾ってある品も高級そうでは無いし、椅子もテーブルと古びている。
部屋の隅には子供のおもちゃのようなものすら、ある。変な部屋だ。
「取り敢えず話してみろ」
「うーん、どうしてもイヤだって言うし…」
「…お前らは、いつも、仲がいいな」
「いつも?ってなんで仲良いこと分かるんだ?いつもって言うほどそんな長く会ってないし…」
魔王がこちらをじっと見つめる。僕はそれを見て顔を顰めた。こういう質問をすると、決まって魔王はこういう反応をするのだ。魔王の事は正直読めない。それが1番困るのだ。
まるで子供を見るかのように、と表現すればそれまでだがそれとはまた違うようにも感じる。
あーやめやめ!考えても分かんない!
「…大丈夫だ。連れて来い」
魔王が呟いた。
「何が大丈夫なの?」
「嫌がってて良いから、それで大丈夫だから、ここに無理矢理でも連れて来い」
え?と返しそうになる。よく分からない。このアホ魔王の頭の中はどうなっているんだ。
僕が頭の中ではてなを浮かべまくっていると魔王が手を出してきて、首に触れてくる。思わずそれを払い退けるよりも体を縮める事を優先してしまって抵抗が出来なくなる。
魔王の手は思ったより、と言うより想像もあまりしなかったし前触られた時も他のことで頭がいっぱいだったから意識してなかったが、かなり冷たかった。
魔族だから、と言えばそうかもしれないが魔族でもこうはならないだろう。
体が熱くて、更にどんどん熱くなっていく中でひんやりと冷たい魔王の綺麗な白い手はかなり心地よかったがなんだか落ち着かなかった。
「…や、…めろ!」
そう言うと予想に反して手を素直に離してくれる。
なんなんだっ!!
唐突になんだかよく分からないものが込み上げて来てむくれてしまう。
「なんの説明も無いし、行動も全部意味不明っ!なんか教えてくれたっていいじゃん!」
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