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(sideクライ)
「あ、ぅ…」
これ本当に僕の知ってる魔王か?
その反応を見て最初に思ったのがそれだ。
しかしこの「手」の感覚は間違えようが無いし、よくよく考えれば魔王紋も最初からなかったような気もする。
あの威厳ある様子が、全て気のせいだったとでも言うように弱気な感情をさらけ出している様に、魔王紋が無いことに対してよりもこれが本当に僕の知ってる魔王なのだろうかという方が気になってしまう。
いや、正確には魔王じゃない…(?)けど、個人としての魔王……っていうかよく考えると魔王に名前、無いのかな。
先程流れてきていた「気」は、明らかな怯えと、恐怖、罪悪感だ。しかし僕にはその原因も分からない。
「ねぇ、教えてよ。これじゃあ、僕だってエルだって、何も分からない」
でも、掴みかけている。今、こんなにも真実に近いのだ。さっきまでは魔王が何も教えてくれない程度の認識だったが、今わかった。これは、もっと大きな出来事に直結するはずだ。
いつもの魔王からすれば考えられないほどに目が揺れている。狼狽えているのが分かりやすい。
押すならここしかない…そう思って更に追い詰める。
「魔王が悩んでいて大変なら、手伝ってあげたい」
「…む、り…だ…」
「確かに僕には無理かもしれない、でも、そばにいてあげることなら、出来るから」
「話を聞いて、相槌を打って、そばにいてあげることなら、幾らでも出来るから」
魔王が目を落とす。壁に飾ってある幼児が描いたかのような絵、机、古臭い燭台、動物の遊び道具、それらに目を移しては怯え体を震わせている。
何が、魔王をこんなにも苦しめているのか。
僕は、何も出来ていない。力しかないから。しかも、その唯一の僕の特徴の力も、その魔王には届いていない。
「そんな事言わないで…お願いだ…」
「僕には何も無い。あるとしたら仲間と、魔王だけだ。力も魔王よりも弱い。なんにも出来ないけど、でも、でも………!」
その時のセリフの選択は間違いではなかっただろう。
何も知らないのだから。でも、何が、どこが、きっかけになったのか。魔王は目から更に苦悩の色を増やし、顔を逸らすと、顔を押さえる。
「俺が…悪いんだっ…ぁぁ…あの時…俺が……」
「魔王……」
「ダメ…ダメなんだ…それは、許されないから…なんのためにここまで、頑張ったのか、分からなくなる…」
バン!
口を開けようとしたその時、ドアが音を立てて開いた。
「魔王様っ!空島がっ!襲撃されましたっ!!!」
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