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始まり
最悪の天気だった。
空は灰色の雲が一面を覆い尽くしており、身体中を打ち付ける大量の水の粒は大きく、動く度体の端々から水滴が滴り落ちる。
地面をかけていくと地面に溜まった水がパシャパシャと跳ねさらに体を濡れさせる。
しかも空気はじめじめしており、いっそ寒ければ良いのにと最悪な気分にさせる。しかしそんな些細な事はあまり重要では無い。
街を素早くかけていくこの姿は大層目立つようでこちらに視線を向ける者は多い。
「いやー、天気は最悪だねぇ。雨避けの魔道具持ってくれば良かったなぁ」
目上相手のそれが言う。それには答えずどんどん道を進んで行くと目的の建物が遠くに見えてくる。
「ねぇー。暇なんだから少しは喋ってよぉ〜」
速度を少しづつ落とし、その建物の前で立ち止まると、少しそれを眺める。
今この通りは昼間だと言うのに薄暗く、泥濘んでいる地面は人通りを少なくさせるに足る理由だった。しかしその建物はいつもと変わらず賑わっていた。
それなりの人数の人が談笑したり、真面目な顔をして壁に貼ってある紙に注視していたり、隅の方にいくつか設置してあるテーブルの上に色々なものを置き睨み合っていたり……。
ここはギルドだ。皆様々な目的を持ちつつ金や名誉を求め冒険者としてここに来ている。
様々な人からギルドを通して出されるクエスト、つまり依頼をこなしたり、至る所に存在するダンジョンを攻略して行ったり、長距離の護衛をしたりとその仕事は多岐に及ぶ。
しかし自分達はその目的で来ているわけでも、そもそも冒険者でもない。
外からふと眺めると、それらの人の中に耳が長く尖った種族、エルフーーの子供が1人混ざっているのが見えた。
「エルフがいるなんて珍しいな」
そして、無視を決め込んだのにも関わらず上司とは思えない気楽な口調のそいつは黙り込む事なくさらにそれを加速させる。
確かにエルフは珍しい。確か故郷の大半をヒトに焼かれ、自然を尊びヒトの里に降りてくることはほとんどない筈だった。
「はぁ。酷いなぁ。そんな性格じゃないでしょー?無視しないでよー」
そこまで頑丈そうでも無いが、割と周囲の建物に比べると大きいそれに入ると少し湿度が下がった涼しい空気が体を包む。
しかし濡れている身からすれば逆に寒く、体から滴る水滴を飛ばすように体を震わせると近くにいたそいつが迷惑そうに言う。
「おい!つめてっ!離れてやれよ!」
いつでもうるさい其奴をちらりと睨むと視線を周囲にそれとなく向ける。
すると、声が近くで聞こえた。
「わー!かわいい〜!」
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