話を聞いて下さい

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話を聞いて下さい

 目的は勇者の視察だった。出来るなら今の進行状況を調べ報告しに帰るというもので、そこまで時間もかけないつもりだった。  元から一応僧侶には気をつけるよう言われていた。しかし流石に予想外すぎたのだ。あれが僧侶だとわかればすぐに撤退できた。  まぁ、仕方ない。  あるじに報告は出来ただろうか。  下っ端の下っ端の下っ端である俺は魔狼である事に間違いはなかったがそこまで強いわけでも頭が良いわけでもなかった。  足の速さは自信があったし全速力で30分はふつうに持つはずだったが何しろ天気のせいで足場が悪かったし、多分あの僧侶、こちらに鈍足の状態異常をかけてきていた。化け物かよ。  サザン様にしてもそこまで地位が高いわけでは無いが自分よりも高いのは確かで、あれでもまあまあ魔法は使えるのだ。  どうせ自分のような雑魚が消えたところで被害は無いのだ。  あるじはよく俺を呼んで良くしてくださったが、下っ端の一匹にしか過ぎないのだ。  そんな我ながら少し悲しい思考をぼんやりと続ける。  ふと、ここはどこだろうと疑問に思う。  ゆらゆらと揺れる周りの景色はぼんやりとしていて、よく見えないし意識も何処か遠い所にあるようで無理にそれらを引き戻そうとしてもどうしても出来ないもどかしさと苛立ちが募るばかりでどうにも無理なようで。  揺蕩う光の中を彷徨う感覚はむしろ心地良かった。このままでも良いのでは、と思う気持ちも湧いてくるようだった。  鈴の音がした。  チリチリと沢山の鈴の音が重なるようにして意味のある音を奏でていく。それらが周りを包み込んでいく。  神聖なものの気配を感じた。魔狼が神聖なものかなど知らないし興味もなかったが少なくともそれとは真反対だろう。そのせいだろうか。ものすごい気配を感じやすいのだ。  ーーねぇ。この子、死にかけだよ  ーーかわいそう  ーーじゃあ王様たちのところに、連れて行ってあげようよ  ーー貴方達……あら。この3妖精に好かれるなんて、珍しいわね。連れて行ってあげましょう  何処か話に聞いた事があるような気がする。  その声を聞いていると次第に元々薄い意識が薄れていく。  心地良かったが、同時に死の予感も色濃く感じられる。  何の目的もない生だったが、これはこれで良かったのでは、と諦めの情が浮き出てくる。  スゥ、と2度目にして最後であろう意識が飛ぶ感覚を感じるのだった。
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