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「おはよう。どうだ、七夕イベントは大人気だろ?」
「うわぁ、本当ですね。皆さん、何をお願いしているのでしょうか?」
のんびりとした口調で、天音は背伸びして短冊を見ている。
「今日から期末テストだし、試験の願掛けが多いぜ」
「あっ、部長の作った短冊がある。『新種の食虫植物が見つかってほしい』だって」
「そういう綿貫も、サボテンについて願ったんじゃないのか?」
サボテンマニアの天音を、猿渡は内心で部長2号と呼んでいる。熱心に話し出したら止まらないあたりが、みちるにそっくりだ。猿渡が好奇心に駆られて、天音の書いた短冊を探してみた。
「あったぞ。『織姫様、彦星様。身長をあと10cmください』?」
「は……恥ずかしいから、大声で読まないでほしいのです!」
機嫌を損ねたハムスターのように突っかかる天音を、いつものように猿渡が全力でからかう、そんな場面だ。
しかし猿渡が不意に真顔に戻ったのは、1年前の記憶が蘇ったからだった。
「……俺は、15cm欲しかったかな」
怒りを引っ込めて怪訝そうな表情の天音にそう言うと、猿渡は珍しく考え込み、晴れた大空を仰ぐ。
畜生、悔しいぜ。この身体は風を切ることを覚えていやがる。
雲の上のブルースカイを眺める切符には、決して届きやしないっていうのに。
15cm。物差し一本分に阻まれた情熱の行き場は、まだ見つからない。
ぼんやりと猿渡が空想すると、熱い砂礫を踏むような痛みが胸の奥に広がった。
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