6. 夏色迷走

1/6
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ

6. 夏色迷走

◇     ◇     ◇  天音が久しぶりに土に触れていると、日頃の都会の喧騒が嘘のようだ。  テスト一週間前からは、空中庭園の水撒きは、園芸部に所属する全員の持ち回りになった。コーラス部や歴史研究部など、別の文化系クラブにいる生徒たちが、日替わりで放課後に植物の世話をする。  支柱に弦を巻き付け、天へと伸びていくプランターの朝顔が、水滴に濡れて陽光できらめいている。種まきした水菜や枝豆が畑に芽吹き、コンクリートの屋上には本格的な夏に向けて、ますます緑が広がっていた。  時折その様子を見学に行っては、天音は感心した。サボテンは手間のかからない植物だが、これからが花の盛りであるハイビスカスは、真夏には朝夕に水をやらなければ枯れてしまう。  テスト期間に入ると部活は停止になるとはいえ、園芸部は365日忙しいのだ。全学年で23名在籍する園芸部員が、交代で植物の面倒を見るチームワークは、どこかしらスポーツにも似ている気がする。    そんな日々が進み、やがて無事にテスト期間が終わると、終業式を待つだけとなった天音は上機嫌だった。  トマトの収穫に来た料理部のクラスメイトと、初めて打ち解けたように話ができたのだ。後で野菜サラダをお礼に持ってくると言っていたので、ウッドテーブルにチェアを3人分出して、休憩の用意をする。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!