6. 夏色迷走

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「完熟トマトも楽しみですが、料理部さんお手製の玉ねぎドレッシングをかけるらしいのです」 「スーパーの野菜は熟れるより早くもいでいる。だから空中庭園で採れたものは味が濃厚でびっくりすると思うよ。綿貫さんは食べ物に好き嫌いがないね」  みちるは微笑むと、ウッドテーブルの真ん中に挿すように大きなパラソルを広げた。体格が立派というタイプではないが身長は高く、花で例えれば、凛としたタチアオイのようだ。天音は羨ましくなった。今日の夕食を一杯食べれば、あんな風に成長するだろうか?  「猿渡先輩は今日お休みで、サラダが食べられないのです。そういえば、あま り最近お見掛けしないのは、体の具合が悪いのでしょうか」 「潤は学校には来てるわよ。空中庭園に顔を出さないだけ」  美樹本はウッドテーブルを拭く姿ですら、レースのハンカチを扱うように優雅だ。 「ちょっと昔の血が騒いだみたい。潤がトレーニングに熱中するなんてね」 「猿渡君は体育会系ですからね」 「体育会系なのに、どうして園芸部に常駐してるのですか?」  そういえば、いつも体重を感じさせないほど身軽だし、重い腐葉土の袋もひょいと担ぎ上げる。天音と同じく小柄な印象の猿渡が、俊敏で馬力があるのは、男子であるせいだと今まで思っていた。  どうやら、それだけではない秘密が隠れているらしい。
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