1. 雨上がりの出会い

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1. 雨上がりの出会い

 朝、ママの用意したホットミルクには、初めから砂糖が入っている。  半熟の目玉焼きをつつきながら、判で押したように「学校は楽しいでしょう?」とママに聞かれると、いつでも天音は無理に笑顔を作る。苦労しているママのためにも、夢見がちで愛される少女でなければいけないのに、高校へ通うのが億劫になっていた。  学校の下足室で畳んだピンク色のレースがついた雨傘を、クラスメイトは「可愛いね」って褒めてくれた。けれど、曖昧に返事して成立する友好関係は、息苦しくて長続きしそうにない。天音はため息をついて、教室へ向かう。  校則には書いてないけど、学校にはサボテンは持っていけない。  天音の、一番大事なお友達なのに。  それを言うとみんなが笑うか無視するし、心の奥にしまい込んで黙ってる。人間の棘は刺さると、とても痛いから、余計なことは言わないでおく。    ママが選んだ、天音の人生は平穏だ。  でも、鏡に映る自分を、天音はちっとも可愛いと思えなかった。
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