4. 内緒のウサギゴケ

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4. 内緒のウサギゴケ

 園芸部に入ってからは、眠気を誘う授業も馴染みの薄いクラスメイトも、嫌な存在ではなくなった。  天音は誰かに「屋上へ行った事ったある?」と尋ねてみたかった。けれど、興味本位で空中庭園の存在が広まることは、園芸部のみんなが望んでいないことなのだ。  屋上スペースに立ち入るには園芸部顧問の泉の許可が必要だ。剣城高校において、空中庭園は会員制の社交場となっているらしかった。園芸部の活動がひっそりしていているのは、草花を愛でるプライベートタイムを守るためなのだろう。  今日は一日中たっぷり雨なのですね、神様の意地悪。  昼休み、お気に入りの屋上の入り口で、天音はぼんやりと座っている。光は差し込まないのでステンドグラスは光らないままだ。魔法の消えた午後に、何となく憂鬱な気分が重なる。  母の梢に、昨日ようやく園芸部に入部したことを伝えたところだった。はっきり言って、旗色は思わしくない。梢は動植物の類が嫌いな人である。  ペット禁止のマンション住まいが気に入っていて、家には観葉植物も置かない。天音の部屋だけは自分のテリトリーとして、サボテンを守っているものの、たまにはベランダで日光浴もさせてあげたい。  梢の機嫌の変動は、愛するサボテンの死活問題に関わることだった。
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