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5. 届かない理想
◇ ◇ ◇
梅雨がひと段落し、衣替えした景色は夏のグラデーションに変わっていく。
下足室の入り口に、園芸部恒例の七夕飾りがお披露目になり、登校した生徒が楽し気に足を止めている。猿渡潤はその生徒たちに、大げさな身振り手振りで参加を呼び掛けた。
青々とした立派な笹に、折り紙で作った金銀の網飾りや提灯の数々が吊るしてあり、皆が用意された短冊に願い事を書いていく。
「今年も盛況だな、頑張った甲斐があったぜ」
笹は毎年、泉が実家の庭から軽トラで運んでいる。生き生きとした笹は色とりどりの短冊で華やかさを増して、一枚吊るすたびにたわんだ。朝から張り切って準備した猿渡は快活な笑顔で、自分の背丈より高い笹を満足げに仰ぎ見た。
「おはようございます、猿渡先輩」
ゆったりとした足取りで、天音が猿渡に近づいてくる。サイズがまるであっていないガーリースタイルのリュックを背負う小柄な姿は、まるで本人がおまけのようだ。
キューピー人形のようにみえて可愛いと言ったら、怒るだろうか。こうして園芸部にニューフェイスが入部し、先輩と呼ばれる立場になって、猿渡はといえば有頂天である。
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