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夏の風物詩が・・・
「暑いな」
「ああ。いくら山ん中とはいえ、エアコンは必要だよな」
「まあね」
だらっと畳の上に寝転がり、高校生三人は口々に文句を言う。部活の合宿でやって来たこの旅館は、山の中にあるというロケーションのためか、エアコンがなかった。たしかに都会のど真ん中よりは涼しいものの、普段からエアコンに馴染んでいる三人には暑く感じてしまう。
旅館はよく言えば風情たっぷりの、悪く言えばがたが来ている古さだった。どことなく、ト〇ロを思い出させるほどの古さ。ここで森の妖精に出会えれば暑さを忘れられるかもしれないが、残念ながらオカリナの音色は聞こえてこない。
「扇風機も一部分しか涼しくねえしな」
「ああ」
部屋の隅にある扇風機を見つめ、三人のうちの一人、木村和也は限界だと叫ぶ。それに同室の二人、田中博と鈴木太一はどうしようもないと首を振った。
「今すぐエアコンが導入されるなんて奇跡は起こらないんだぞ」
「そうだそうだ。合宿が終わる三日後まではこのまんまだ」
博と太一に責められ、和也はむっとする。しかし、暑いものは暑い。
「何でこんな山奥に」
「たしか顧問の山田の実家がこの近くなんだろ?で、この旅館の経営者とも知り合いだから、安く泊めてもらえるんだと。ま、足腰鍛えるために山ん中にきてるわけだしねえ」
「まあねえ」
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