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「するとある日、奥さんは出掛け先からちょっと予定より早く家に戻ってみると、奥の部屋のふすまの隙間から、あの小袖の裾が見える」
「おっ」
「一体どこにあったんだと、しかもどうして裾だけがとふすまを覗くと」
「覗くと」
「何と、若い女中がその着物を着て、旦那とイチャイチャしているではないか」
「うわあ」
「最悪の展開」
「だろ?」
そこでにこっと笑う太一は悪そうな顔をしている。そして続けた。
「旦那はあろうことか、自分より若いその娘に小袖を着せて、愛でて楽しんでやがったのさ。妻に着せるよりお前の方が似合う。あいつになんてもう勿体ない。大年増がこんなもんを着ても見苦しいとか囁いている」
「うわあ」
「当然。奥さんはぶち切れるよな。ふすまをばんっと開け放つと、その小娘めがけて殴り掛かる」
「わおっ、修羅場」
「ああ。しかも、あろうことか旦那はとっとととんずらだ。女二人の取っ組み合いが始まっちまう」
「最悪」
それ、現実的に怖い話ではと、和也は腕を擦った。何だか先ほどからちょっと寒い。心理的なものだろうか。
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