夏の風物詩が・・・

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「怒り心頭の奥さんはもう娘の首をきりきりと締め上げた。そして気づくと」 「死んでた?」 「ああ」 「うわぁ」  さらに最悪と、和也は腕を擦る。鳥肌が立った。 「ところがまあ、そこは江戸時代の話だ。世間体ってものを気にして、その娘が旦那を誑かしたことになり、奥さんはお咎めなし。商家は金持ちだからな。役人に袖の下で、詳しい詮議はさせなかった」 「――」 「そして問題の小袖はっていうと、処分すりゃあいいのに、奥さんはそいつをずっと飾ることにしたんだ」 「え?」  予想外の展開に、和也は間の抜けた声を出す。浮気の証拠となり、しかも殺人を犯すことになった小袖を飾る。怖い、怖すぎる。 「旦那もすっかり怯えてなあ。小袖が怖いものの、奥さんの怒りを買っては拙いと見て見ぬふりをしていた。ところがだ」 「――」 「ある晩、ふとその小袖が気になって、旦那は小袖の飾ってある部屋を覗いたんだ。すると」 「すると?」  和也も博も聞き返しながらごくりと唾を飲む。 「袖から腕だけが出て、手招きするんだ。こっちですよって」 「――」 「姿は見えない。でも、その手には見覚えがある。なんてったて浮気してイチャイチャしてたんだからな。あの娘の手だ。旦那は怯えて逃げた」 「うわあ」  和也はマジで怖いやつじゃんと顔を引き攣らせる。しかし、さっきまで余計な合いの手を入れていたはずの博が何も言わない。どうしたと見ると、なぜか博はある一点を見つめている。 「え?」
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