九―一

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九―一

――その行動の中に、正義は存在するのか?  ホテルへと向かう道中、私は何度も自問自答していた。今自分がしている事は、果たして正しい事なのか? 椋木さんの介入により収まりかけていた事態を、自らの手で再びかき乱しているのではないか? と。 「いや――」  だが、その疑問が浮かぶ度に私はかぶりを振った。確かに杉岡さんを救う為、と言えば幾らでも大義名分を作る事は出来る。しかし敢えてそうは考えない事にした。  ここ数日の経験で至った結論だが、恋愛というのはある意味“特定の人物に対する独善的な自己主張”だと思う。だから今は、そこに正義の有無は問わない事にした。自分勝手と言われたらそれまでだが、それくらいの気概で臨まなければ椋木さんを相手にして、尚且つ杉岡さんに自分の気持ちを伝えられないと思ったからだ。 『300メートル先、海峡プロムナードの交差点を左折してください。その後直進すると、目的地周辺です』  その決意がやっと固まった頃、スマートフォンにプリセットされていたカーナビが目的地付近である事を伝えてくれる。しかしそう案内されるまでもなく、決戦の場所が近い事は分かっていた。海沿いにそびえ立ち、金色の光を放って並々ならぬ存在感を示す巨大な建造物、『ウルティ・グランホテル』が随分前から見えていたからだ。指示通り左折して直進し、大きく『P』と表示されている看板の前でウインカーを出すと同時に減速すると、素早く係員が駆け寄ってきた。 「いらっしゃいませ。宿泊のお客様でしょうか?」 「い、いえ。ええと……知人とこちらで食事の予定がありまして」 「ありがとうございます。お食事はレストラン『プレジー・ギャルソン』で宜しいですか?」 「え、えー……はい、確かそうだったと……」 「かしこまりました。でしたらお手数ですが、道なりに500メートル進んで頂いた場所にございます、当ホテルの第三駐車場までお進み下さい。ホテルの正面玄関からは真裏になりますが、レストラン専用の出入り口がすぐ近くにございますので」 「は、はい。ありがとうございます……」  係の方に一礼して、更に直進する。しまった、ホテルの入り口から一番遠い所に駐車する羽目になってしまった。ただでさえ時間が無いというのに……いや、それでも思ったよりは早く到着出来て、時刻は20時30分。もしかしたらまだ二人はレストランにいるかもしれない。…………椋木さんの予約したレストランがそこで間違いなかったらの話だが。
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