九―三

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、ですか」 「い、いやいや! 今も桑野さんには色々迷惑かけて申し訳ないって思ってるよ? でも……最初ね、パートナーになってすぐの時。桑野さんには、嫌われてるって思ってた。この人には好かれることは無いなって変な自信が出来ちゃってて。最初の頃、桑野さんずっとイライラしてたし」 「う……」  確かに最初の頃、彼女の自由過ぎる行動に苛立っていたのは事実だ。心の中で、彼女の嫌いなところをリストアップしていた事もある。 「そしたら油断したのかな? 段々素の私が混ざってきて、自分でもよく分からない性格になってきちゃったの」 「……今にしてみれば色々、思い当たる(ふし)はあります」 「あはは……申し訳ない。――ちなみにその思い当たる節って、例えば?」 「思い当たる節というか、見え方が変わったというか……いつかの柿谷商事さんでの商談の後、二人で飲みに行った時でしょうか。確かキンクマハムスターについて、熱く語られていましたよね」 「そ、そんな事もあったなー……。うち、猫がいるからハムスター飼えなくて、つい、ね?」 「その時の杉岡さんを見て、思ったんです。『この人はこんな風に笑うんだ。もしかしたらこの人は、いつも周りに遠慮して生きているのかもしれない』、と」 「……そうなの?」 「ええ。目に見えている姿や振る舞いとは、何か違うものを感じました」 「そっか……うん。そっか」  杉岡さんは一言そうつぶやくと、それっきり黙り込んで顔を俯かせた。これは……また何か地雷を踏んでしまったのか? とはいえ左手は彼女に強く握られ抱きしめられている。ここは余計な言葉を挟むべきではないと判断し、私は黙って杉岡さんの横顔を見つめ続けた。 「あの時……おんなじような事を二人とも感じてたんだなぁ」 「同じ……ですか? 杉岡さんも?」 「うん」  顔を上げた杉岡さんは、ゆっくりとこちらに顔を向ける。いつも眠そうな彼女の瞳だが、部屋の雰囲気も相まってか今はそれが妖艶に見えてしまい、思わず直視できなくなる。
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