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「杉岡さんは……今僕の目の前にいるあなたはとても可愛らしいです。少なくとも僕にとっては世界の誰よりも、比べ物にならないくらい一番可愛い」
「え? ちょっと待っ……桑野さんどうしていきなり……?」
杉岡さんは自分の表情を隠す様にこちらに手をかざし、それでも目線はこちらに向けてくれている。その恥じらう仕草も、今はたまらなく愛おしく思えてしまう。
「待ちません。今までは心の中でいつも思っていながら、言いたくても言えなかったんです。これからも事あるごとに言わせてもらいますから、覚悟していてください。――勿論、杉岡さんが嫌でなければですが」
「嫌じゃ……ない。嫌じゃないよ、全然。凄く嬉しい。あの時はごめんね、いきなり逃げちゃって。訳わかんないよね、桑野さんがせっかく褒めてくれたのに」
「いえ……あの時は僕も不躾でしたから」
「ううん……でもね桑野さん。別に、不公平じゃなかったと思うんだけどなぁ」
「不公平じゃなかった……というと?」
「だって……私も言えなかったし」
「杉岡さんも?」
「うん。じゃあ、言っちゃうね。桑野さんはね。桑野さんは、凄くカッコいいの。今までちょっと恥ずかしくて言えなかったけど、とってもカッコいい男の人。こんな私を何度も助けてくれる、私にとってはヒーローみたいな存在だもん」
「ヒーロー……僕が?」
「うん……そう」
杉岡さんは照れ臭そうに髪を数回いじると、両手を膝に置き微笑を浮かべる。そこから示し合わせた様に僕達は黙り込んで、互いを見つめ合った。次第にどちらからともなく近付き、笑みを含んだ彼女の目は更に細くなって、やがて完全に遮断された。
「っ……」
自ら視界を遮った杉岡さんの肩に手を添えると、その体は少しだけ強張った。しかしそれは一瞬で、僕の両手に身を委ねる様に体をこちらに向けて傾けた。彼女の息が当たる距離まで接近した僕もまた瞼を閉じ――
ぎこちないけどゆっくりと、精一杯の気持ちを込めて、僕達はキスを交わした。互いの唇を捧げた二人は自然と相手の背中に手を回し、今まで表に出せなかった愛情をそれぞれの体温で、深く深く確かめ合った。
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