九―四

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・プランその1.「『あれ』持ってないんですけど、どうしましょう?」  ……駄目だ。持っていない事を正直に告げる事はともかく、その判断をこの場で女性に委ねるのは男として間違っている。 ・プランその2.「『あれ』持ってません。でも責任取りますから」  これは……どうなんだ? 一見男らしい発言なのかもしれないが、そもそも杉岡さんがこの時点で二人目の妊娠を望んでいないかもしれない。それにやはり、結婚を前にあまりいい加減な事はすべきではないだろう。これも駄目だ。 ・プランその3.「すみません、『あれ』持ってますか?」  ない。これはない。問題外だ。女性に聞くなんてデリカシーが無さすぎる。それにだ。もし仮に、彼女が持っていたとしたらどうする? そもそも今日は椋木さんに誘われて杉岡さんはここにいる訳なのだ。この前提からその事実を鑑みた結果、僕の心のダメージは計り知れないじゃないか。駄目だ、ここは触れるべきじゃない。 ・プランその4.「『あれ』持っていないので、ちょっと外のコンビニまで買いに行ってきます」  ううむ……スマートではないが、これが一番確実なのかもしれない。これならば時間はロスするがほぼ確実に『あれ』が手に入るし、最低限『あれ』を使うという意思は表明できる。その上で杉岡さんの方から不要な旨を告げられたら、そのまま次のフェイズに移行すればいい。まぁ結果的に彼女に「もってるよー」と言われプランその3の失敗パターンに陥ってしまう可能性は拭えないが、それでもこれが現状での最善策なのは間違いない。よし―― 「すみません杉岡さん。実は……その……恥ずかしながらですね。こういう事態を想定していなかったもので、『あれ』をですね。『あれ』と呼ぶのもおかしいですが、あの、避妊の為の、俗にいう、ええと……ゴム? と言うやつで…………杉岡さん?」  反応が全く返って来なかったので、身体をずらして彼女の様子を確認すると――杉岡さんはごく自然に目を閉ざして規則正しい寝息を立てていた。しまった。また一人で考えすぎてしまったのか……。 「杉岡さん、すぎ…………ふふ」  一度は起こそうかとも思った。だがその寝顔を見ているうちに、今宵は彼女の寝姿を眺めながら夜を明かすのも悪くない、そう思えてきた。とはいえ膝から先はベッドから落ちている体勢なので、起こさないように慎重に杉岡さんを抱きかかえてベッドの中央に移動させる事にした。
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