九―四

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「そうですね。頑張らなければならない事はこの先、沢山あると思います。僕個人も、杉岡さんの為に頑張ろうと昨夜決心しましたから。……ですが、頑張らなくてもいい事もきっとある筈です」 「そうかもしれないけど……」 「昨晩の事に対してもそうですが。杉岡さんが僕とこれから末永くお付き合いしてくれるのなら――いや、僕自身の願いとしてそうでありたいと考えるからこそ、先を急ぐ必要は無いと思っています。時間には限りがあれど、まだまだ少なくはないと思っていますから。ですからお互い無理しないで、二人のペースで行きましょう」 「二人の……うん。ねぇ桑野さん、くっついてもいい?」 「駄目です。高速道路を運転中に体勢を崩すのは危険なので、真っ直ぐ座っていてください」 「うぅ……はぁい」  残念そうな声でシートに座り直す杉岡さんを横目に、現在のキロポストを確認する。あと30㎞弱か―― 「ここからならあと20……いや、15分で一般道に下りますから」  速度計に目をやり、アクセルを踏み込むと同時にハンドルも少し右に傾けて追い越し車線に移動する。速度が上がるにつれて増していく振動を感じ、近いうちに車の買い替えも真面目に考えなければならないな、という考えが頭をよぎった。 「う、うん。桑野さん、いつもよりちょっと速い?」 「ええ、少しだけ飛ばしています。昨日の夜ほどではありませんが」 「昨日はもっと速かったんだ……でも、そんなに無理しなくていいよ?」 「無理してませんよ? 正直に言えば、僕も早く一般道に入りたいと思っただけですから。ですからもう少し待っていてください」 「うん。…………はい」  きっと彼女が掴んだのだろう。左の(すそ)に僅かな重みを感じながら、ふと思う。  僕は、この人の事が嫌いだった。自分勝手で、だらしなくて、女性としての恥じらいがまるで無くて、話し方もどこか鼻について。  でもそのどれもが、彼女が自らを守る為に作り上げた鎧であって、足枷(あしかせ)でもあったのだ。僕を苛立てせていたは、彼女自身の大嫌いな部分でもあったのだと思う。もう、そんな嫌いな自分を演じなければならないような思いはさせたくないと心に誓い、僕はもう少し右足に力を込めた。
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