九―四

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「もしもし、ママ? うん、今は総合庁舎の辺。……ん? 車だよ? そうそう桑野さんの……えっへへへ。もうすぐ帰るから――」  高速道路を下りる直前、僕はある事を杉岡さんに提案した。『お母様に挨拶をさせてほしい』と。突然外泊した形になってしまった訳だし、今後の為にも親御さんにはどうしてもお目通りをかなえておきたかったのだ。杉岡さんはすぐに了承し、こうして連絡をとってくれた訳だが―― 「ママ、大丈夫だって。娘も起きてるから、急いで着替えさせて待ってるって」 「そうですか、良かったです。しかし……お母様は僕の事をご存じなんですね」 「あー……うん。結構話してるよ、桑野さんの事。楽しみにしてるって」  一体僕は、どんな話題で取り挙げられていたのだろうか。『気難しい堅物』とか? まぁとりあえず、外泊した事に関してお怒りでない事が分かっただけでも気分的に全然違う。 「楽しみ……そんな大したものではないですから、がっかりされるかもしれませんが」 「大丈夫大丈夫、桑野さんだったら普通にしとけば――そうだ、もうくっついてもいい?」 「ええ、少しなら。シートベルトからは大きくはみ出さないように気を付けてください」 「はぁーい。えへへ……」  僕の車の前列はベンチシートになっており、シートベルトをしたままでも横にずれるだけで容易に密着することが出来る。現に杉岡さんは体重をかけないように僕に寄り添ってくれているのだが……彼女がここまでベタベタしたがる女性とは思わなかった。正直なところ嬉しいが、気恥ずかしくもある。というか、何だかんだで結局彼女にリードされているような気がしてならない。 「桑野さんの車、やっぱり好きだなぁー」 「そうですか? どこにでもある軽自動車ですけど」 「だって会社の車より簡単にくっつけるでしょ? 距離が近い分、さっきまで我慢するのも大変だったんだから」 「確かにコンパクトな車内ですけど……ただ我慢が大変なら、早急に買い替えを検討しましょう」 「えええ? う、嘘うそ、我慢大変じゃない。だからこのままがいい!」
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