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その夜、事の顛末を語り合うためにわたしと探偵の少女は塔にいた。
「あなたは、どこまで知っているの?」
硬い声で尋ねた探偵の少女に、わたしは語りかけてあげる。
彼女が知りたがる、「真相」というものを作り上げるために。
「あなたは、何も知りたいの?」
「何をって……。犯人は、かまいたちはあの子だったけど、ねぇ……、もしかしてマリー先生が引き継いだんじゃないかしら」
「引き継いだ?」
「かまいたち」
他には誰もいないこの場所で、探偵の少女はそっと声を潜めた。
「彼女、女優だって言ってたじゃない? 何にでもなれる、という意味じゃないかしら? 先生にも、かまいたちにも、泉の精にも」
探偵の少女の声を聞きながら、あの日、マリーがしっかり結んでくれた包帯の上をなでる。今もまだ響くような鈍い痛みが伝わってくる。
「あの子の家族にも?」
この問いに探偵の少女はどう答えるだろうか。
怒るだろうか。
笑うだろうか。
この世界で役に立たないすべてのことに好奇心を注ぐ彼女なら、レース編みの少女の声を耳にすることができたのかもしれない。
これまでよりもずっと人が少ないはずの塔が、ふと狭苦しく感じた。今すぐ窓を開けに行きたくなったわたしの衝動を断ち切るように、探偵の少女の明るい声が響いた。
「そうよ! きっとそうに違いないわね。あの人たち、今、どこで暮らしてるのかしら」
レース編みの少女が姿を消した翌朝、夜の青い光が残っている早朝のことだった。月の光を閉じ込めたような青白い泉に彼女のレースがふわりと浮かんでいた。真っ白なレースはどんな汚れも寄せ付けないように撒き散らされていた。泉の周囲には先日までは咲いていなかった曼珠沙華が咲き誇っていた。
「そうね、あなたが言うなら正しいはずよ」
彼女の行方は誰も知らないけ。
いつしか彼女の部屋ひっそりと閉ざされた。彼女は希望通り、ここにずっといることを選んだのだろうか。それとも、探偵の少女が語る「真実」の中で生を紡いでいるのだろうか。
わたしは湖を訪れるたびに透き通るような青の奥を覗き込んでみる。
深い青い水は彼女を永遠に閉じ込める。
もう二度と彼女の編み出す新しいパターンは見られないと思うと残念だった。そっと手を伸ばすと、月光で生まれた影がわたしの手のひらに降りてきた。その影を見つめながら、きっと、わたしは遠い物語の端切れに引っかかっただけの残滓なのだろうと思った。もう直ぐ、過去が本当の顔をのぞかせる。
こうして、塔の住人は二人だけとなった。
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