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ただし、ピアノ線を張ったのは彼女ではなかった。
ある少女が夜毎にピアノ線を張り巡らせ、ときおり人が通るのを見計らって糸を引っ張ったと告白した。ある夜、罠にかかったレース編みの少女が何度も何度も懲りずに自ら罠にかかるのを見て恐ろしくなってやめたという。
「マリー先生が、どなたかの名前を叫びながらやってきたのよ。名前? さぁ、忘れてしまったわ。あとは先生が片付けてくださるというから、部屋に戻ったの。もう夜遅かったからずいぶん眠かったし」
「どうして?」
探偵の少女の問いかけに少女は首をかしげた。意味がわからないもう一度言ってくださる?、そう問いたげに。大勢の少女たちを傷つけたことは特に気にはしていないのだろう。彼女はきっと今も無垢な少女の群れにまじって噂をささやき交わしている。
「どうして?」
探偵の彼女は懲りることがなく、かつて砂糖菓子の少女に問いかけたように同じ質問を繰り返した。もちろん、その少女は答える術を持たず、最後はただ困ったようにわたしに視線をよこしただけだった。少女がなぜそんなことをしたかなんて誰にもわからない。
わたしも、そんなことに興味はない。
夏の終わりに、泉の精は花嫁を連れ去った。
マリーはきっとこの学園の少女たちの「噂」の中で永遠に生きるだろう。
でも、別にそれは特別なことではない。
ここにいるものは皆、この森に囲まれた学園の中で永遠の時を生きているようなものだ。
翌日の礼拝で、マリーは都合によりこの学園を去ったと伝えられた。少女たちは静かにその説明を受け入れる。少女たちは「本当のこと」の説明など求めていない。真実が明らかになるほどつまらないことはないのだから。探偵の少女だけがぽつりと「どうして?」とつぶやいた。木々のざわめく音が聞こえてくる。私たちの世界を押しつぶそうとする森のうめき声のように。
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