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「あ、ここにいたのか」
ようやく二人を見つけた一番目の兄が、おっとりと声をかける。
すでに三の御子は娘の傷の手当てを終えていた。
不器用ながらも、娘の擦りむいたおでこと鼻、手のひらに薬草を塗って、布を当てた。
「むりむり言いながら、ちゃんと面倒見て、偉いじゃないか」
「泣くし、うるさいしむり」
別に気に入ったわけじゃないから、とあいかわらず取り付く島もない。
娘はどういうわけかご機嫌だった。
がん泣きしていたのが、けろっとしている。
手当てが嬉しかったらしく、自分の手のひらに顔を近づけ、よもぎの匂いを嗅ぎ、しげしげと包帯を眺める。
それから、憮然としている三の御子の顔をじーっと見る。
視線に気づいた御子が見返すと、
「ありがとう」
娘はぺこりと三の御子に頭を下げた。
この娘が話すのを見るのは初めてだった。
屋敷に来てから、一言も話していなかったので、しゃべるんだ。と少し驚く。
「お。ちゃんとお礼してる」
感心したふうな兄の隣で、三の御子が難しい顔をする。
「しゃべるしむり」
「……しゃべるだろ大抵の人間は」
おじぎしていた頭を上げると、娘は、はにかむようににっこりと笑った。
「笑うしむり」
ぶれない全否定だった。
「……こりゃ、母君がぶち切れになるのもわかるな」
兄はすっかり呆れた。
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