山の花嫁

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もちろん問題なく終わるわけもなかった。 「あれ? あの娘どこやった?」 屋敷に着いた途端、二番目の兄が訊ねてきた。 母君も門で待ち構えていた。 「お前のせいで酷い目にあったんだけど」 文句を言いながら、兄は御子の頭を小突く。 それは自業自得だろうと思いながら、御子は兄の手を振り払う。 振り払いながら、しれっと答える。 「食べた!」 「はー? 嘘つけ」 「ほんとだってば。もう食べた。骨も残さず」 「食べたはずのその子、後ろにいるけど?」 御子は振り返り、きょろきょろと見回す。 もうすぐ日が落ちきる。あちこちの葉陰に目を凝らすが、暗闇が見えるだけだ。 「どうせ、またどっかに捨ててきたんだろ」 「げ」と呻きながら、人の悪い笑い顔を見上げる。 「なんでばれたの」 「まったくこの子は!」 聞き咎めた母君は激怒する。 「好き嫌いばっかりしていると大きくなれませんよ!」 「だからちびなんだ」 兄が茶々を入れる。 「うるさい。ちびじゃない」 「なんでそんなに人間が嫌いかね?」 いやいやいや、と首を振る。 「そっちこそよく食べれるね? 共食いみたいなもんだよ。気持ち悪い」 「共食い? 全然違う。俺ら、角あるし、牙あるし」 二の御子はくわっと口を開けてみせる。口が耳まで裂け、目はぎょろりと大きくなる。般若の面をかぶったように、一瞬で鬼の形相になる。 思わずびくつく弟を見て、けらけら笑う。 「ばかみてー。自分も鬼なのにびびってる」 笑いながら、また面をかぶるように、人間の若者の顔に戻る。しかし、こめかみの二本の角はそのままだ。 むすりとした三の御子の額にも、確かに小さな角がある。
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