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プロローグ
「──聞こえる」
本当にいきなりだった。
トワが自転車のブレーキをかけて、そうつぶやいたのは。
トワっていうのは、オレのクラスメートで親友の天野永遠のこと。読書とピアノが趣味の、お金もちのおぼっちゃまだ。
おまけにピアノは、小さいころから数々のコンクールで賞をとるほどの腕前。
ちなみに、トワが日本人にしては茶色い髪や目をしてるのは、トワのじいちゃんがフランス人だかららしい。
つまり、トワはクォーターってやつなのだ。
まったく……庶民派のオレには、ついていけない。
まあ、それはどうでもいいとして。
トワが突然、急停止するから、オレもあわててブレーキをかけるハメになった。
「……っとっとっとぉ! ったく、急になんだよトワ?」
「セーヤには聞こえない?」
「は? 何が?」
「ピアノの音。ほら、ほんっとうに、かすかだけど」
トワに言われて、オレは耳に神経を集中させる。
ミーン、ミンミンミンミンミンミンミン……
ザッパ~ン、ザプゥン、ザッパ~ン……
「……すんませんが、セミと海の音しか聞こえませんよ、トワさん」
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