七章 アンリのたからもの

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「いやあ、本当によかった! これで、めでたし、めでたしだね」  いきなり聞こえた能天気な声に、オレたちは我に返った。  声の主の存在を、トワは今さら思い出したらしい。あわてて立ち上がり、 「あ、あの。助けてくれて、ありがとうございました!」  トワはレグルスにお辞儀をして、それからオレを見る。 「で、この人がレグルスさん?」  そーいえば、まだトワに説明してなかった。 「……うん。ちなみにこの人、吸血鬼」 「とゆーわけで、聖也くん」  ぽん、とオレの肩に置かれる手。  ふり返れば、イケメン兄ちゃんのちょーいい笑顔。げっ……めっちゃ、嫌な予感。 「お友達を助けたお礼に、君の血、いただきます」  やっぱり!   ぎょっとしてオレを見るトワ。一方でオレは、今さら自分の窮地を思い知った。  さっきは勢いで「血でも何でもやる」なんて言っちゃったけど。オレは顔を引きつらせた。 「……やっぱ、あげなきゃダメなんだ、血」  そりゃそーだよな、約束したもんな。まあ、血をやるのは百歩譲っていいとして、まさかオレまで吸血鬼になっちまうなんてこと、ないよな?  なんか、そういう話、本とかで読んだことあるんですけど……て、ヤバいじゃん、それ!  オレが脳内パニックを起こしてる間に、トワがレグルスの前に歩み出た。 「お兄さん。セーヤの血を飲むのは、やめたほうがいいと思います」  トワは、はっきり断言する。 「ふうん? それは何故だい?」 「だってセーヤ、ポテチとかコーラとかカロリー高そうなもの好きだし、そのかわり野菜は苦手だしで、まったく健康に気を使ってないんです。そんな人の血、絶対おいしくないです」  ぺらぺらとしゃべりまくるトワ。いつもなら「うるせえよっ」って、どなるとこだけど。  今のトワは多分、オレをかばってる。  レグルスは、そんなトワを興味深そうに見ていた。  そして何を思ったか、とつぜんトワの顎を白い指先でつかむ。吸血鬼は、ぺろ、と赤い舌をのぞかせる。 「へえ……? 聖也くんの血はおいしくない、と。じゃあ、君の血はどうなのかな、永遠くん。君は、わたしを満足できる?」  真っ青になるオレ。反対にトワは表情を変えない。どころか、すげー冷静に返した。 「少なくとも、セーヤのよりおいしいと思います。だってボクんちお金持ちだし、セーヤよりいいもの食べてるもん」  びっくりするほどイヤミなトワの回答!  顎が落ちそうになったオレだけど、これには、レグルスも驚いたみたいだ。その証拠に、あんぐりと口を開けちゃってるし。イケメンがだいなしだ。  するとトワの顎から手を放して、レグルスは腹をおさえて、うずくまる。  なんだ、胃が痛いのか?  「ぷっ、くくくくく……!」  いや、違った。腹おさえて笑いをこらえてる、この兄ちゃん。 「あっはははははは!」  我慢できなくなったのか、ついに高らかに笑い声をあげた。 「いやあ、おもしろい! おもしろすぎる回答だ、永遠くん。感動した!」  そして、目じりにたまった涙をぬぐいながら、レグルスはトワにこう忠告した。 「実におもしろい回答だが……わたしが本物の吸血鬼だったら、君は今ごろ食べられちゃってるよ? もう少し自分を大事にすることを考えて、ものを言ったほうがいい」 「あ、聖也くんもね」と指をさされるオレ。  え、ていうか。 「な、なあ、ちょっと。『本物の吸血鬼だったら』って、どういう意味?」
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