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「いやあ、本当によかった! これで、めでたし、めでたしだね」
いきなり聞こえた能天気な声に、オレたちは我に返った。
声の主の存在を、トワは今さら思い出したらしい。あわてて立ち上がり、
「あ、あの。助けてくれて、ありがとうございました!」
トワはレグルスにお辞儀をして、それからオレを見る。
「で、この人がレグルスさん?」
そーいえば、まだトワに説明してなかった。
「……うん。ちなみにこの人、吸血鬼」
「とゆーわけで、聖也くん」
ぽん、とオレの肩に置かれる手。
ふり返れば、イケメン兄ちゃんのちょーいい笑顔。げっ……めっちゃ、嫌な予感。
「お友達を助けたお礼に、君の血、いただきます」
やっぱり!
ぎょっとしてオレを見るトワ。一方でオレは、今さら自分の窮地を思い知った。
さっきは勢いで「血でも何でもやる」なんて言っちゃったけど。オレは顔を引きつらせた。
「……やっぱ、あげなきゃダメなんだ、血」
そりゃそーだよな、約束したもんな。まあ、血をやるのは百歩譲っていいとして、まさかオレまで吸血鬼になっちまうなんてこと、ないよな?
なんか、そういう話、本とかで読んだことあるんですけど……て、ヤバいじゃん、それ!
オレが脳内パニックを起こしてる間に、トワがレグルスの前に歩み出た。
「お兄さん。セーヤの血を飲むのは、やめたほうがいいと思います」
トワは、はっきり断言する。
「ふうん? それは何故だい?」
「だってセーヤ、ポテチとかコーラとかカロリー高そうなもの好きだし、そのかわり野菜は苦手だしで、まったく健康に気を使ってないんです。そんな人の血、絶対おいしくないです」
ぺらぺらとしゃべりまくるトワ。いつもなら「うるせえよっ」って、どなるとこだけど。
今のトワは多分、オレをかばってる。
レグルスは、そんなトワを興味深そうに見ていた。
そして何を思ったか、とつぜんトワの顎を白い指先でつかむ。吸血鬼は、ぺろ、と赤い舌をのぞかせる。
「へえ……? 聖也くんの血はおいしくない、と。じゃあ、君の血はどうなのかな、永遠くん。君は、わたしを満足できる?」
真っ青になるオレ。反対にトワは表情を変えない。どころか、すげー冷静に返した。
「少なくとも、セーヤのよりおいしいと思います。だってボクんちお金持ちだし、セーヤよりいいもの食べてるもん」
びっくりするほどイヤミなトワの回答!
顎が落ちそうになったオレだけど、これには、レグルスも驚いたみたいだ。その証拠に、あんぐりと口を開けちゃってるし。イケメンがだいなしだ。
するとトワの顎から手を放して、レグルスは腹をおさえて、うずくまる。
なんだ、胃が痛いのか?
「ぷっ、くくくくく……!」
いや、違った。腹おさえて笑いをこらえてる、この兄ちゃん。
「あっはははははは!」
我慢できなくなったのか、ついに高らかに笑い声をあげた。
「いやあ、おもしろい! おもしろすぎる回答だ、永遠くん。感動した!」
そして、目じりにたまった涙をぬぐいながら、レグルスはトワにこう忠告した。
「実におもしろい回答だが……わたしが本物の吸血鬼だったら、君は今ごろ食べられちゃってるよ? もう少し自分を大事にすることを考えて、ものを言ったほうがいい」
「あ、聖也くんもね」と指をさされるオレ。
え、ていうか。
「な、なあ、ちょっと。『本物の吸血鬼だったら』って、どういう意味?」
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