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「え? ああ。だってわたし、吸血鬼ではないからね」
……はい? オレとトワは二人して、固まった。てことは、
「は、はあああ!? お、おまえっ。じゃあ今までのぜんっぶ、ウソかよ!」
「だって、タダで君たちに力を貸すのは、なんとなく癪だったからね。少しばかりからかったというか、度胸だめしさせてもらったわけさ」
白い歯を見せて、へらへら笑う兄ちゃん。何が度胸だめしだ、こっちは死ぬ思いだったんだぞ。
つーか、無駄にイケメンなのが余計にムカつく!
「なら、お兄さんは一体、なんなの?」
トワが静かに問う。珍しく、その顔が強張っていた。
そうだよ。吸血鬼じゃなかったら、一体何なんだ?
すると、兄ちゃんはすっと背筋を伸ばした後、きれいに腰を折って、それはそれは優雅にお辞儀した。なんか、絵本に出てくる王子さまみたいだ。
「では、改めて。わたしは、レグルス・ボールドウィン。このつくも神ホテルの創設者で主、そして、魔法使いだ」
それから、ぱっちん、とウインクしてレグルスはつけ加えた。
「フルネームは長いから、レグルスと呼んでくれればいい」
「レグルス……やっと起きたのか」
一二三ちゃんがセレナーデさんに支えられながら、あきれ顔でやってきた。
「やあ、一二三か。半世紀ぶりだね! いやあ……思ったより封印の力が強くてね。完全に目覚めるのに時間がかかってしまったよ」
「まったく……世紀の大魔法使いとあろうものが、なぜ吸血鬼と間違えられて、うっかり神父なんぞに封印されるのだよ」
世間話みたいにすごいことを話す二人に、オレは力が抜けた。
ていうか、吸血鬼に勘違いされて封印されたんかい! すごい人なのか、マヌケな人なのか、まるでわからない……
「とりあえず、元気そうでなによりですわ、レグルスさま」
セレナーデさんがおっとりと笑う。この変な主人に、完全になれている様子。そして、
「レグルスさまっ、お久しゅうございますっ」
竹兄が目をきらきらさせながら、レグルスに駆け寄った。まるでご主人さまに甘える犬そのもの。
「ああ、若竹か! 元気だったかい?」
レグルスも竹兄の頭をよしよし、となでる。
扱いまで犬みたいだぞ……
竹兄はほっぺを赤くそめて、されるがままになっていた。めっちゃ、うれしそうだし。
なんだかんだ一二三ちゃんもセレナーデさんも、久々にご主人に会えて、うれしそうだった。
「では諸君。せっかくの再会だし、こんな廊下に立っているのもあれだ。スイートルームにでも移動しようか。とびっきりのお茶とお菓子を用意して」
レグルスは、オレたちのほうを振り向いた。空色の瞳を細め、
「聖也くんと永遠くんも来るといい──君たちは、非常に興味深い」
そう言うと、みんなをつれて先にスイートルームに向かって、歩いていった。
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