七章 アンリのたからもの

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「え? ああ。だってわたし、吸血鬼ではないからね」  ……はい? オレとトワは二人して、固まった。てことは、 「は、はあああ!? お、おまえっ。じゃあ今までのぜんっぶ、ウソかよ!」 「だって、タダで君たちに力を貸すのは、なんとなく癪だったからね。少しばかりからかったというか、度胸だめしさせてもらったわけさ」  白い歯を見せて、へらへら笑う兄ちゃん。何が度胸だめしだ、こっちは死ぬ思いだったんだぞ。  つーか、無駄にイケメンなのが余計にムカつく! 「なら、お兄さんは一体、なんなの?」  トワが静かに問う。珍しく、その顔が強張っていた。  そうだよ。吸血鬼じゃなかったら、一体何なんだ?  すると、兄ちゃんはすっと背筋を伸ばした後、きれいに腰を折って、それはそれは優雅にお辞儀した。なんか、絵本に出てくる王子さまみたいだ。 「では、改めて。わたしは、レグルス・ボールドウィン。このつくも神ホテルの創設者で主、そして、魔法使いだ」  それから、ぱっちん、とウインクしてレグルスはつけ加えた。 「フルネームは長いから、レグルスと呼んでくれればいい」 「レグルス……やっと起きたのか」  一二三ちゃんがセレナーデさんに支えられながら、あきれ顔でやってきた。 「やあ、一二三か。半世紀ぶりだね! いやあ……思ったより封印の力が強くてね。完全に目覚めるのに時間がかかってしまったよ」 「まったく……世紀の大魔法使いとあろうものが、なぜ吸血鬼と間違えられて、うっかり神父なんぞに封印されるのだよ」  世間話みたいにすごいことを話す二人に、オレは力が抜けた。  ていうか、吸血鬼に勘違いされて封印されたんかい! すごい人なのか、マヌケな人なのか、まるでわからない…… 「とりあえず、元気そうでなによりですわ、レグルスさま」  セレナーデさんがおっとりと笑う。この変な主人に、完全になれている様子。そして、 「レグルスさまっ、お久しゅうございますっ」  竹兄が目をきらきらさせながら、レグルスに駆け寄った。まるでご主人さまに甘える犬そのもの。 「ああ、若竹か! 元気だったかい?」  レグルスも竹兄の頭をよしよし、となでる。  扱いまで犬みたいだぞ……  竹兄はほっぺを赤くそめて、されるがままになっていた。めっちゃ、うれしそうだし。  なんだかんだ一二三ちゃんもセレナーデさんも、久々にご主人に会えて、うれしそうだった。 「では諸君。せっかくの再会だし、こんな廊下に立っているのもあれだ。スイートルームにでも移動しようか。とびっきりのお茶とお菓子を用意して」  レグルスは、オレたちのほうを振り向いた。空色の瞳を細め、 「聖也くんと永遠くんも来るといい──君たちは、非常に興味深い」  そう言うと、みんなをつれて先にスイートルームに向かって、歩いていった。
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