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階段を上れば上るほど、空気がひんやりとしてくる。
空から聞こえるのは、小鳥たちのさえずり。
町のにぎやかな音は、とっくの昔に聞こえない。
「──なんか、まったく知らない、遠い場所に来たみたい」
トワがぽつり、ともらした。
オレは何も言わずにうなずく。
まさにトワの言うとおりだ。オレたちの町に、こんな所があるなんて知らなかった。気温も空気も、海辺とまるで違う場所。
海の香りの空気もいいけど、ここの空気はもっと透明で、とにかくおいしい。
そんなふうに空気を味わいながら登っていくうちに、頂上が見えてきた。
「よっしゃ、やっと着いたー!」
と喜んだのも、つかの間。
次に待っていたのは、草木びっしりの道! もはや、道と言うべきじゃないかも。でも、ここまで来たからには、進むしかない。
オレたちは草木をかき分けながら、前へと進んでいった。
すると、いきなりクロがトワの頭から飛び下りて、たっと走り出す。びっくりするオレの横で、はっと顔を上げるトワ。
「ど、どーした、トワ」
「聞こえた」
「え、あ! ピアノか?」
「うん。あっち!」
クロが走っていったほうを指さすトワ。
オレたち二人はクロの後を追って、どんどん進んだ。
草木をかき分け、早歩きが小走りになって、走って走って走って……
──そして、ついに、たどり着いた。
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