番外編 君と親友になった日

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番外編 君と親友になった日

 オレ、桐谷聖也は、最初から天野永遠と親友だったわけじゃない。  オレが初めて天野永遠と同じクラスになったのは、小学三年生のときだ。  お金持ちのおぼっちゃまで、フランス人のじいちゃんをもつクォーターで、小学生にして数々のコンクールをものにする、ピアノの天才。  勉強も得意で、運動はあまり好きじゃないのか、休み時間はたいてい一人で本を読んでいる。  初めて天野のことを知ったとき、まっさきに感じたのは『あ、こいつ、オレと全然違う人種だわ……』である。  いや、だって、しょうがないだろ?  オレはエリート庶民で、勉強は苦手で、一番好きな授業は体育!  芸術的センスなんてものは微塵もなくて、読書に関しては……気づいたら、いびきかいて寝ている。  つまり単純に、オレとあいつには共通点がひとつもない、ってわけだ。  何か用があれば普通に話せるけど、そこまで仲がいいわけでもないクラスメート。  同じ教室にいても、オレとあいつの間にはいつも、薄いガラスの板があるみたいだった。オレたちは、あまりに違うから。向こうだってオレに興味なんか、なかっただろうし。  けどオレは、あいつのことは、嫌いじゃなかった。  お金持ちのお坊っちゃまで、勉強もできて、ピアノの才能もある。  けれどもあいつは、そのことを一度も自慢したり、偉そうにしたことがなかった。かといって誰かにほめられたとき、謙遜したりも、しなかった。  音楽の授業で、天野永遠がピアノを弾く。その演奏に、クラスメートが歓声をあげて拍手する。すると天野は、はにかみながら、 「ありがとう!」  そう言って、心の底から、うれしそうに笑う。  その姿が潔くて、すっごい、かっこよかった。  まあつまりオレは、あいつのことを、ひそかに尊敬していたんだ。
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