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* * *
「さいっあく、だ……!」
この日、オレはくたびれたランドセルを揺らしながら、帰り路を歩いていた。そりゃもう、げんなりとした表情で。今だけ顔が十歳以上、老けてる気がする。
今日は苦手な音楽の授業があった。自分で言うのもむなしいが、オレはとんでもない音痴だ。
授業で『翼をください』を歌ったんだけど、オレが歌う『翼をください』は、翼が生える以前の問題だ。歌い始めからすでに失速、落下している。
クラスメートには、さんざん笑われる始末。
しかも授業の終わりに、先生は笑顔で爆弾発言をした。
──今度の授業で、歌のテストをおこないまーす。曲は『翼をください』です。てなわけで、みんな、がんばろーね!
「ウソだろ公開処刑か、オレを精神的に殺す気か! 歌のテストとか、オレが大恥かくの、火を見るより明らかだろおぉー!」
先生の言葉を思い出して、思わず歩道橋の上で叫んでいたら、
「聖也くん?」
背後から声がした。
えっ、誰?
ふり返ると、そこに立っていたのは天野永遠。傷の少ないランドセルを背に、首をかしげてオレを見てくる。そんで、無邪気な様子で尋ねてきた。
「どうしたの。もしかして音楽のテストのことで悩んでる?」
「は!? な、なんでそれを」
「いや、たった今、叫んでたから」
……ああ、そうだったな。うん。
オレは恥ずかしくなって、ぷいとそっぽを向いた。
「うるせえよ、わかってんなら訊くな」
つい、きつい口調になってしまった。
(歌のうまいお前にオレの気持ちが分かるかよ)
天野は何も悪くないけど、そんな気持ちが湧きあがったのも、事実だ。
そんなオレの心を知ってか知らずか、天野はさらりと口にした。
「たしかに聖也くん、ヘタだったね、歌」
「…………は?」
ひく、と自分の唇のはしが引きつったのが分かる。
今こいつ何て言った?
確かにオレは歌が下手だ。でも、もうちょっとオブラートに包め。今日はいい天気だね、みたいなノリで言うんじゃねえ!
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