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きょろきょろ、とあたりを見まわすトワ。
そして「あ!」と声を上げた。
トワの視線の先。門の隙間をくぐったに違いない。
クロが屋敷の敷地の中を、そりゃもう、ご自由に散歩していた。
「おい……たぶん、一応、人さまの家だぞ。勝手に入っちゃマズイだろ」
「でも、人の気配とか、まったくないよね……もしかして廃墟、なのかな」
「じゃあ、ピアノ弾いてたのは、誰なんだよ?」
「人じゃないなら、それはもちろん、ゆ──」
「ばっ、バカヤロっ、それ以上言うんじゃないっ」
なんて、やりとりをしている間に、クロは屋敷の玄関まで、ちょこちょこ近よっていく。
て、あれ?
よく見ると玄関の扉、なんか、びみょーに開いてないか?
と思った瞬間。
するりっ。
クロが扉の隙間をすりぬけて、建物の中へ入っていった。
「って、おい────!?」
「クロ────っ!」
思わず叫ぶオレとトワ。クロ、それ不法侵入だぞ!
でも、クロが戻ってくる様子がない。
ということは、つまり、オレたちがクロを捜しにいかなくちゃならない。
しかし、冷静になって考えてみると。
この屋敷、結構……いやかなりブキミ、かも。
だってイバラ姫の城みたいな洋館だぞ?
てことは、悪い魔女がいかにもいそうなわけでして。
尻込みするオレの隣で、
「困ったね……でも、しかたない。クロを捜しに、ここ、入っちゃおっか!」
セリフとは反対に、元気よく宣言するトワ。
なんか、めっちゃいい笑顔だし!
「なんで、うれしそーなんだよ、おまえは! ぜってー楽しんでるだろっ」
オレはビシィッと指をトワに突きつけた。
「だいたい門っ。門が閉まってたら、入れねーし」
「でも、鍵かかってないみたいだよ、ほら」
トワが軽く押すと、キィ、といとも簡単に開く門。
ああ……これはもう、覚悟を決めて、クロを捜しにいくしかない。
「わかったよ……じゃあ、行くぞ」
オレたちは一緒に、門をくぐりぬける。その瞬間、
──ぞくっ。
オレとトワは同時に足を止めた。そして、思わず、お互い目を合わせる。
なんだ、今の。
なんか……
敷地内に足をふみ入れた瞬間、その場の空気が変わった気がする。
うまく言えないけど……あの門が境界線で、それを踏み越えたら、まったく別の世界へ来ちゃったような、変な感覚だった。
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