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【自転車落語:時ギア】
古典落語:「時そば」を元にしたお話です。
毎度、馬鹿馬鹿しいお話でございます。
さて、自転車の世界にも流行りすたりなんてものがありまして
最新の機材を使った自転車は人気があるんですが
型落ちとなったものはどうにも買い手が付かないなんてことがあります。
このお話は型落ちととなってしまった自転車の在庫を抱えている
お店が舞台です。
こちらのお店では去年の最新モデルを入荷したのですが
なかなか買い手が付かずに残ってしまった。
しかも今年のモデルは変速機の性能が上がってギアの段数が一枚増えてしまった。
タダでさえ去年の型落ち品なのに性能も見劣りしてしまうと
ますます買い手が付かない。
在庫があまって困っていたところにお客さんがいらっしゃいました。
「すみませんスポーツタイプの自転車が欲しいんだけど…」
そのお客さんの対応に行ったのは
この店一番の売り上げを誇るリーダー。
「はい、どのような自転車をお探しでしょうか?」
「最近流行っている、スポーツタイプの自転車が欲しいんだけど…」
「はい、ではこちらに各種取り揃えております。」
「おおーかっこいいのが揃ってますね」
「恐れ入ります」
「しかし、結構な値段がするものですね」
「そうですね、こういうタイプの自転車はスピードも出る代わり安全面も考慮されているので、少しお値段は張りますね」
「なるほどー。でも出来ればもう少し安いのが良いんですけどね」
「それでは、去年のモデルなんてどうでしょう?」
「去年の?」
「はい、型落ちモデルとなっておりますのでお値段もお勉強させていただきますが…」
「安いのはいいですね、見せていただけますか?」
「はい、承知いたしました。こちらの自転車になります」
「おお、結構綺麗じゃないですか」
「店内で保管していましたので新品です」
「これがいくらくらいになるんですか」
「はい、そうですね。ではこのくらいのお値段ではどうでしょう」
「結構値引きがあるんですね。」
「はい、お勉強させていただきました」
「ちょっとまたがってみてもいいですか」
「もちろん良いですよ」
「結構サドルの位置が高いですね。」
「はい、スポーツタイプの自転車はこんな感じですね。でもサイズ的にはお客様にちょうどピッタリですね」
「ふむふむ」
「しかも、今日の衣装と言わせると自転車の色もあっていてとてもお洒落ですね」
「そ、そうかな?」
「乗った時の姿勢がいいですね!今まで何かスポーツでもやられてました?」
「いえ、あまりスポーツはやったことなくて」
「それでは初めてですか、才能があるかもしれませんね」
「そ、そう?エヘヘ」
「じゃあ、この自転車買っちゃおうかな。」
「ありがとうございます」
「あ、一応型落ちってことは、今年のモデルと何か違うんでしょう。何が違うの?」
「色が違うくらいですかね」
「そうなんだ?」
「はい」
「知り合いに聞いたら変速機?の段数が多い方がいいらしいんだけど
今年モデルは段数がいくつあるの」
「後ろ側の変速機で11段あります」
「そんなに要るものなの?」
「人にもよりますが多いほうが楽だと言われていますね」
「じゃ、こっちの型落ちのモデルは?」
「僕もちょっと覚えてないので数えてみましょうか?」
「一枚、二枚、三枚、四枚…あ、今何時でしたっけ?」
「五時ですね」
「六枚、七枚、八枚、九枚、十枚、11枚」
「あ、去年モデルも同じなんですね」
「そのようですね」
「じゃあ、この自転車買います。」
「ありがとうございます。」
「店長、あの在庫の自転車売れました!」
「え、あの型落ちモデル売れたの?助かったよーありがとうね。今年のボーナスは奮発するよ!」
その様子を見ていた、あまり売上がよろしくない店員さん。
「え、どうして型落ちの自転車が売れるんだ…
今年モデルと去年モデルでは性能も違うから、どう考えても今年のモデル買うだろ
しかし、アイツもアイツだ。
ギアの数なんて知ってるだろうにわざわざ数えたりなんかして
一枚、二枚、三枚、四枚って
しかも途中で時間なんて聞いたりして
時計見ればわかるじゃないか
なのに五時ですねって
そして六枚、七枚、八枚、九枚、十枚、11枚って…アレ?
確か去年モデルの自転車は十段変速じゃなかったっけ?」
「あ、途中で時間を聞いて一枚ギア数ごまかしたんだ!
うまいことやりやがったな!
俺も真似して売ってボーナスもらおうっと」
次の日の昼過ぎ、一人のお客さんがいらっしゃいました。
この時、対応したのは売り上げがあまりよろしくない店員さん。
昨日のことがありましたから、今日はなんとしても型落ちモデルを売って店長さんにほめられてボーナスをもらうつもりです
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、今日はスポーツタイプの自転車が欲しいんだけど」
「はい、こちらのモデルなんてどうですか?」
「あれ?これって去年のモデルに見えますけど」
「でも、だいぶお安くできますよ?」
「そうなの?じゃ見るだけ見てみようかな。乗ってみていい?」
「はい、どうぞ」
「ふーん、まぁ、こんなもんかな」
「お客様の衣装とお似合いですね!」
「え、これスーツなんだけど…こんな服で乗るわけないだろ」
「え、あの、そうですね」
「変なことを言う店員さんだなぁ」
「あ、あの姿勢がとってもいいですね。才能がありますよ!」
「いや、もう十年もやってるからフォームくらいできてるさ」
「え、ああ、そ、そうですね」
「おかしなことをいう店員さんだなぁ」
「ふーん、この自転車いくら?」
「値引きして、このくらいです」
「なるほど結構安いね」
「はい」
「でも、確か今年モデルってギア数が多くなったんじゃなかったっけ?」
「いえ、そんなことないですよ、数えてみましょうか?」
「一枚、二枚、三枚、四枚…今何時ですか?」
「午後二時になったところだね」
「三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚」
「全部で八段変速です。」
「なんだパチモンか、ナメられたもんだな。いらねーよ!」
「店員くん、一体何をしたんだね!今のお客さん常連さんなのに怒って帰っちゃったじゃないか!今年のボーナスの査定に響くからね!」
「そんなぁ…」
ちゃんちゃん♪
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