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2.アプリを持っている彼は……
アプリを持っている彼は、年下であるが先輩にあたる同僚だ。
顔は良くもなく、悪くもない。それなりに積極性があれば彼女くらいいただろうが、基本的に礼儀正しく真面目な性格だった。その礼儀正しさと真面目さが他人と距離を置く為だと気づいた時、典型的な陰キャなのだろうと考えた。
私はそんな彼とは仕事上の付き合い以上のことなどはなかったし、他の同僚たちも似たようなものだった。
次年度になって、彼にやたらと絡む新卒採用の女子社員が現れた。
「生理的に無理!」
そう言って新卒女子は彼のことを馬鹿にする言動を発信した。
新卒女子は容姿がかわいく、男受けする言動も相まって、彼女の機嫌を伺う男子たちが現れる。すると、アプリの彼は次第に社内で孤立するようになっていった。
私を含めた女子も、新卒女子に眉を顰めても、とりたてて彼を救う理由はなかった。
その日、残業で遅くまで部署のフロアに私と新卒女子の二人が残っていた。
私のほうが一足早く仕事を切り上げたのだが、折悪しく会社を出たところで雨が降り始めたので置き傘を取りにフロアに戻ることにした。
フロアの近くまで来ると、中から男女が言い争う声が聞こえてきた。
「なんで、あんたがまだ残ってるのよ! あんたみたいなキモい陰キャ、あたしの視界に入ってくるだけでセクハラなのよ! ましてや、こんな時間に二人きりなんて訴えてやるわ!」
「俺は……お前なんかに興味もなかった……。俺なんかがお前みたいな美人とどうこうなれるなんて最初っから考えてもいねーよ。それなのに、よくそこまで憎んでくれるよな? なあ、のべつまくなしにキモいって言われ続ける気持ち、お前も味わってみるか?」
「陰キャのくせに、あたしに興味がないとか酷い!」
ただならぬ空気を感じて私はそっと中の覗き見る。
男の声はあの陰キャ男子だった。
彼がスマホを弄ってみせると……世界が書き換えられるのを私は感じた。
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