NECRO phobia

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 召集までの間に、ルナの部屋で過ごしたボクは魅由さんの遺したCDを全部聴いた。そのどれもが似たような感じだし上手くもなかった。宣言した期限までに価値が付くようには思えなかったけど、ルナにとっては何よりも価値がある物になっていると考えたら……初めから死ぬ気だったのだろうかという疑問も浮かんだ。でも、話を聞く限りCDを渡した時点では仲良くなろうという気も無かったみたいだし。  それに、どの曲も『前へ進め(ゴー・フォワード)』とか『生きろ(アライブ)』とか適当に当てはめただけみたいな、羅列された英語(英文ではない)だけど前向きな言葉ばかりだった。  地下施設で整列している間に、ボクはそんな魅由さんと同じタトゥーを入れた女を見ていた。  こう言うのも失礼だけど、話で聞いた人物像とは一つ、大きく異なる点があった。『品』だ。とても、トイレで怒鳴りつけるようには見えないのが美零さんだ。それが普通といえば普通なのだけど。 「珍しいわね、さっきから随分と熱い視線を感じるんだけど」  登録しに来た美零さんは微笑を湛えて言う。気付かれていた。 「トイレに行きたいのに人が入ってたらどうしますか? おまけに時間も無い。しかも、その一つしかないとして」  咄嗟に出た質問に、美零さんは首を傾げる。それさえもいちいち画になるのがまたなんとも言えない。 「他の所に行く。そうでしょ? 普通は」 「〝普通〟ならそうですね」  ただ、『魅由』は明らかにエキセントリックな行動、言動が多いからそのカテゴライズは意味が無い。 「露出癖はありますか?」 「私に? 無いわ」  不躾な質問に、さすがに見せていた愛想は陰を潜めた。隣に並ぶトーマが首を捻っているのが視界の隅で見えた。これで登録の時間は終わってしまって、確認する時間は無くなった。でも生きて帰れば、また何度でも確かめる事が出来る。相手の機嫌の許す限りに。  ルナの感覚を狂わせた事に苛立ちはあるけど、それよりも、生きているなら無理矢理地上にでも会わせてあげたかった。そしたら、〝代わり〟のボクは不要になるかもしれないという不安はあるけど、会いたい人に会うのが一番だ。 「さっきの質問て何か意味があるの?」 「いや、個人的な事だから何も意味は無いんだ」 「もしかして……イズってそういう趣味?」 「…………違うから忘れていいよ」  トーマの予測は素っ頓狂なところに飛んで行った。コンテナを受け取り、ボクらは慣れた手つきで『夢 想(イメージング)兵器(アーマー)』に着替えていく。人間から、アーマーの一部になるのだ。 「もしかしてさ、須山さんと……」 「違うから!! なに言ってんだよ……」 「何が違うって?」  着替え終えたハルがやってくる。アーマーや武装服の傷や汚れが戦歴を物語っている。初戦から戦っているボクらは……いや、戦争はいつから始まっていた? 柳隊長の開戦前の挨拶は、多少の差異はあれどいつも同じだ。もっと、何度も戦っている人だっているかもしれないのに。 「別に大した話じゃないよ」 「あぁ? 二人して俺をのけもんか。そうか……」  わざとらしいくらい顔が泣きそうになっていた。登録を終えたタイチの元にすっ飛んでいく。除け者を二人にする為に。 「拗ねるなよ……」 「うっせ! どうせ日中イチャイチャしてたんだろ!」 「よくわかったな……」 「デバイスの電源切りやがって。連絡つかねぇしよ」 「あぁ、悪い。何か用事あったのか?」 「いや、津田沼行ったから、そういえばイズの家も津田沼だったなって思い出して遊ばねぇ? ってだけ。お前らがイチャこいてる間に俺は一人寂しくだなぁ、ラーメン食ったり……あ、旨い店だったから今度一緒に行こうぜ。で、なんかあった?」  聞いたら卒倒しそうだなぁと思いつつ、ボクは面白がって言ってみる。 「キスした」  返事が無いからハルの方を見ると、声も無く固まっていた。追い討ちを掛けてみよう。 「舌入れられたり……ノド乾いたって言えばジュース口移しして来たり大変だったよ」 「それ……飲んだの?」  トーマも呆れ半分みたいな顔で聞いてきたから、「仕方なく」と付け加えて、ボクは肯定した。それもこれも、全部あの女のせいだと、心の中で思いつつロビーの方を見た。あんな質問までしておいて、他人だったらボクは美零さんに土下座しなきゃいけない。 「イズが汚されている……なぁ、トーマ! ありえねぇよな。俺ら純潔同盟としては許され──」 「ごめん、僕も彼女いるんだ」 「ぅぇぇぇぇぇえええ!? い……いつから? 中学ん時俺らずっと同じクラスだったのに……」  なんだその同盟って言おうと思ったら、トーマの爆弾は核兵器的なきのこ雲を、ハルの脳内に巻き上げていた。ボクも意外だったけど、自分の思い描く人物像なんて宛にならないっていうことを学んだばかりだ。トーマはただ真面目なわけじゃなく、そういうやることはしっかりやるタイプだったというだけの話で。 「中三の時から。今も同じクラスだよ。佐々木由紀奈」  クラスでもあまり目立ってないタイプだ。ルナの言う、〝ただ内気で話さない人〟タイプの。そっちはそっちでちゃっかりしてる。   ハルは最後の砦である山本に視線を向けたけど……万が一、億が一の可能性の為に、何も聞かなかった。トドメを刺されるのはハルだから。 「いいなぁ、そりゃあ生き残りたいと思えるよな。俺もなんかあれば良いんだけど……」 「妹がいるって言ってなかったか?」 「いやいや、イズ君……イズ様。妹に手は出せねぇよ? アニメとか漫画とかの妹は美化しすぎだぜ? あぁいうのはラブコメでくくるもんじゃねぇ。幻想だ。ファンタジーだ。お兄ちゃ~んとか言って甘えてくる妹なんてな、ペガサスとかドラゴンと同じ類なんだって! わかるか!?」  ただ嫌われているだけじゃないのか? それに、さすがに妹とそんな関係になれとは言ってない。 「妹もののエロ本でも部屋に置いておくといい。もしここで死んで部屋を掃除された時にそんな本が出てきてみろ? 葬式で最期に向けられるのは軽蔑の目だ」  話を聞いていたのか、近くの兵が吹き出していた。誤魔化す為の咳払いがわざとらしい。言われた本人はなんだか嬉しそうで、まんざらでも無さそうに見えたけど、そういうことではなかった。 「イズもそういう冗談言うようになったんだなぁ。これが彼女いる奴の余裕か? そうだろ?」 「馬鹿にされてんのに喜ぶとか、ハルも意外とMだな」  これから人を殺しに向かう者達の空気ではなかった。トーマも笑っていたし、出来る限り、この武器庫までが『現実』で、ゲートの先からは『ゲーム』だと感覚を麻痺させたいのかもしれない。その方が良い。絶対に被弾してはいけないゲームだと。  柳隊長の挨拶は今日も同じような感じだった。定型文でも読んでいるみたいに。もしかしたら、あれはプログラムされたホログラム映像なのかもしれないと思ったけど、二度も腕を掴まれたし、兵とは呼べない二人を射殺したから違う。  ゲートが開くと、さすがにボクらもたたらを踏んだ。作戦がまだ無い。誰がどう決めるかなんていう事も無いままだ。 Voice<<町田一輝:日出君、どうする?  通信機から第三隊長──町田一輝さん──の声がした。開戦した以上、敵はもう動いているはずだ。  この期に及んで、ボクはまだ、誰かに全兵の命を、その責任を押し付けようとしていた。 Voice>>All:とりあえず、前回までの作戦はもう通用しないでしょうね Voice<<町田一輝:だから聞いてるんだ  お前も押し付ける側か。それも、ボクを名指しで。頭の中でシミュレーションしていると、一人、前に出た男がいた。銃も持たず、ヘッドギアを脱ぐと、ガリガリに痩せこけてクマの酷い男だった。全員に、ヘッドギアを脱ぐように言い回っているのは、そいつと同じグループだろう。五人の仲間らしき奴らも前に並んだ。 Voice<<九条正義:よく聞いてくれ! 私は九条(くじょう)正義(まさよし)。先日、リーダーだった飛高君が戦死した。何故死んでしまったのかと考えた結果、答えは一つしか無かった  〝弱いから〟なんて言ったらぶっ飛ばしてやろうかと思った。最前列にいるボクは拳を握っていた。同期しないアーマーは動きにくいけど、それでもこいつがかわすよりは速いはずだ。もったいぶって放たれた答えは至極簡単な事だった。 Voice<<九条正義:強かった彼が何故死んだかと言えば、それは戦ったからだ。戦わなければ死ぬ事はない。さぁ、全員武器を捨てよう。平和に解決する意志を見せようじゃないか!  五人の仲間も、さぁ一緒に!! とでも言うように、銃を床に置いた。誰も応じようとはしない。当然だ。今までにも戦う意志の無いやつはいたし、そいつらの中にだって殺された人もいた。 Voice<<九条正義:生き残りたい者は我々に倣って武器を捨てよう!! そして、行こう。この戦争を終わらせる為に!!  ついには武装服まで脱ぎだして、Tシャツとパンツ一丁だった。珍妙な集団と化した六人は、ゲートの先に駆け出した。 Voice<<東春海:どうすんだよ、あれ…… Voice>>All:少しでも被害は出したくない。ボクらでバックアップしよう。あれを囮にするんだ。足止めくらいにはなるはずだ Voice<<仁科冬真:敵がわざわざ止まってくれるかな? Voice>>All:……さぁ?  一から九の小隊の隊長に、ボクは宣言した。やっぱり、これしか思いつかないし、やれることも無い。 Voice>>All:3B先行します Voice<<町田一輝:待て! 俺達はどうすれば良いんだ? Voice<<中村樹:おいおい。最年少の特攻隊長に責任押し付けんなよ。上級生が頼られてんだ。なぁ、日出  第五隊長──中村樹さん──はそうフォローしてくれた。 Voice>>All:はい。あとは各自の命を最優先でお願いします。ボクらのサポートも考えなくて良いです  ハルが勇んで前傾姿勢になる。もうこの四人の命は四人で守りあうしか無い。勝手に突っ走るんだ。それで構わない。 Voice>>All:一人も通さなければ各小隊は生きられる。ボクらで全滅させるんだ Voice<<東春海:オッケー、行こうぜぇ!!  三本立てた指を折って、カウントする。拳に変わった瞬間に、ボクらは一斉にゲートを飛び出した。石柱の間が百五十メートルとか飛高さんが言っていたから、多分、初速から最後まで、百メートルを七秒台くらいで息切れする事無く走れている。山本が少し遅れるのがネックだけど。体重も考慮されているんだろうか。いや、まだ使いこなせていないだけだ。  二本目の石柱が見えたところで、さっきの集団がのたのたと走っているのが見えた。アーマーが無いから息も切れるし遅い。彼らの存在がレーダーに映らないのはヘッドギアが無いせいか。こんな危険な不感知(ステルス)機能があったなんて、皮肉にも命知らずの奴らのお陰で知れた。仕方無い。お礼に忠告くらいはしよう。 Voice>>All:戻ってアーマーを着てください Voice<<九条正義:いや、駄目だ。君達こそ下がりたまえ。争いは憎しみしか湧かない。仇討ちという名目が増えるばかりだ。君もそうだろう? 飛高君の仇を取るために戦うんだろう?  なかなか核心を突いてくる。確かに、それもあるけど、初めは誰の仇も無かった。そういえば、『魅由』はこんな事も歌っていた。 Voice>>All:〝戦わなければ生き残れない〟から戦うんです  あの人は何かと戦っていたんだろうか。やめろ。考えるな。引き摺ったらアーマーが固まる。 Voice<<九条正義:大人しく見ていろ。誰も死にたくないのは敵も同じだ。敵だって……いや、彼らだって生きてこの戦争を終わらせたいはずだ Voice>>All:……だったら、一切バックアップはしませんよ? 例え撃たれそうになっても、撃たれても。それがあなたの選択ならボクはそれを『被害』とは考えません。当然の事象と考えます Voice<<九条正義:物わかりが良い君は出世するタイプだよ。この平和になった世界で活躍する事を願ってるよ  六人を見送って、ボクらは石柱に身を潜めた。彼らが殺されて攻め込まれたらすぐに応戦出来るように。 Voice<<仁科冬真:でも、これってあの人達を囮にした作戦に思われないかな? Voice<<東春海:俺なら思うな。つーか、後ろから撃ってやりてぇな Voice>>All:まぁ、世の中にはあぁいうのが昔からいるみたいだし。逆に、これで終戦したら儲け物だ Voice<<東春海:気兼ねなくイチャつけると思ってんだろ? Voice>>東春海:そうだな…………次はセックスか  ハルのアーマーが直立不動になって固まった。わかってはいたけど、それが当たると面白い。まさかカッターで切り合う事がそれを指すとは思わないだろう。  こんな雑談をしていても、レーダーを見ていれば敵の接近くらいはわかる。弾が当たらなければどうということはないし、まだ遊んでいられる。  彼らの事を否定しながらも、ボクはどこかで期待しているのかもしれない。どんな形で誰がこの戦争を終わらせてくれてもかまわないから。英雄の座なんてくれてやる。  レーダーではまだ敵は遥か先にいる。向こうの動きとしては、今回はじりじりと九個の小隊で上がってくる堅実な作戦だ。こっちがどう出るかわからないから様子見だろう。 Voice>>All:帰りご飯食べて帰らないか? 安くて上手いラーメン屋が上野にあるらしいから  ハルのアーマーを動かしてやる。直感と言うよりは、もう耳とリンクしてるんじゃないかってくらい、ハルは言葉通りに動く。 Voice<<東春海:奢れよ。こないだ俺が奢ったんだし Voice>>All:金あるだろ? Voice<<東春海:そうだけ……ど……?  ハルのアーマーが固まっていた。思考が止まっているんだと、ボクらはすぐにわかったけど、そんな話はしてない。 Voice>>All:どうした? Voice<<東春海:腕切れた……いってぇ……  見ると、明らかに刃物で切りつけられている。レーダー上では、敵はまだ遠いっていうのに。なのに、岩場の陰からハルの首元にナイフを持った手が伸びていた。ボクはハルを突き飛ばしてやると、そいつと一緒にひっくり返った。  敵はアーマーも着けていない。だからレーダーに感知されなかった。あの六人だって死んだかどうかもわからない。いや、殺されたから敵はこの仕組みに気付いた。不感知(ステルス)の斥候だとでも判断したんだろう。 Voice>>All:全隊!! 敵はアーマーを着てない!! だからレーダーは感知しない!!  レーダー上で動かない敵もいるし、そいつはアーマーを置いて中身はどこかに行っているだけなのか、ただこっちの襲撃に備えているのかわからない。  恐ろしいのは不感知(ステルス)狙撃手(スナイパー)だ。どこから撃たれるかもわからないのは意識だとか判断だとかそんな問題じゃない。 Voice>>All:目視するんだ!!  もうレーダーなんてアテにならない!!  このヘッドギアがレーダー用の発信機なら、これを捨てればボクらも消えられる? いや、機動力が落ちる。自慢じゃないけど、百メートル十二秒台の鈍足では生き残れない。  ハルを起こして疾走すると、六人は土下座の体勢で背中を撃ち抜かれて死んでいた。日本でしか通用しないものをやってどうなるんだ。何に期待していたんだボクは。  面倒この上無い。果たしてレーダー上の赤い点が敵を示しているのかもわからない。 Voice<<中村樹:日出君!! もうレーダーは切れ!! こっちは大惨事だ  第五隊の隊長──中村樹さん──からだ。 Voice>>中村樹:何が起きたんですか? Voice<<中村樹:こっちの死んだ奴のヘッドギアを拾って、敵が着けやがった。もう何がなんだかわかんねぇよ!!  ふざけてる。なんなんだよそれ。というか、ヘッドギアがレーダーの色を決めるという仕組みも初めて知った。  レーダー上では赤い点はほとんど不動。青い点は減っていないがそれが全部仲間というわけではないらしい。 Voice<<仁科冬真:イズ、どうしたの? Voice>>All:こっちのヘッドギアを敵が拾って着けてるらしい。感知されずにボクらを素通りして、ボクらの陣地に入り込んでたんだ。囮を有効に使ったのは向こうだ Voice<<東春海:そんなのどうしろってんだよ!!  ボクだってわかるか、そんなもの。一体何人が生きているんだ。 もはや前進するだけが攻撃ではない。戻るか? そんな思考を読んだアーマーは脚を止めた。 Voice>>All:挟み撃ちは避けたいところだ Voice<<東春海:そうだけどよぉ……だからこそ攻めるんじゃねぇのか? Voice<<仁科冬真:戻るのも有りだとは思うけど、この場合……  トーマは後ろを向いて言った。敵と思って接近したらもぬけの殻なんてのがもう五体もいた。闇雲に前を向くのが正しいのかもわからない。  ボクらの動きが止まっているのを知ってか、第五小隊長の中村さんが通信で声を掛けて来た。 Voice<<中村樹:日出、こういうのはどうだ? これが全員の総意だから気にするなよ? 殺される前に死んだ方が良いってな。お前達ならやれるって信頼してるんだ。ここで敵に良いようにされるのも癪だからな Voice>>中村樹:何を…………まさか……やめて下さい!! 今行きますから!! Voice<<中村樹:全員ぶっ殺せ。残りの全員が敵だ  半数以上の青い点が消えた。殺されたんじゃない。全員が死を選んだ。敵を炙り出す為に。ボクらに全てを託して。 Voice>>All:戻ろう。全員が敵だ。みんな……自分で死を選んだ。ボクらが勝つ為に Voice<<東春海:あぁ  もう、さすがにハルも前進する気にはなれなかったらしい。たった四人になった戦場で、ボクらは撃ちまくった。指を動かす感覚も無くなるくらいに。どこから撃ってくるかわからない、仲間だと思ったら敵だった。そんな自体になっていたんだろう。戦況をひっくり返すには、紛らわしいものがいなくなれば良い。だから消えてくれた。あの人達は、勝つ為に死を選んだ。  死者の数だけ、生者の命は重くなる。ボクらはもう抱えきれない命を背負わされていた。もういい。終わってくれ、こんな戦い。  負担は軽減されるとはいえ、身体を動かされているというのは疲労が蓄積される。ボクらの脚も止まりかけていた。イメージどころじゃない。直立になってしまったまま、トーマは吹っ飛んだ。庇うように、ボクとハルが滑り込んでカバーする。ヘッドギアに二・三の弾丸を掠めながらも、三人を撃破したところで……、 Voice<<柳雄大:撤退しろ。休戦協定が結ばれた Voice>>All:……はい  正直、助かったとしか思えなかった。四人で帰ろうにも、もう歩くイメージをすることさえ困難だ。敵は無限に増えて行くように思えた。どうやってこんなにも増員出来るんだ? 人口の違いか。だったら初めから勝ちようが無いじゃないか。 「おい、生きてるか?」  ヘッドギアを脱ぎ捨てたハルが息も絶え絶えに声を挙げた。 「……うん。疲れたけどなんとか」  トーマも無事みたいだ。ハルがゆっくりと立ちあがった。少し離れた所にタイチが倒れている。 「タイチは? 大丈夫か?」 「疲れたよ……」   眠い。アーマーに動かされるのも楽じゃない。それに、次はボクら四人以外全員新人となる。もう勝てる気がしない。 「イズ! 起きろ。迎えが来たぞ」 「……どうする? 次は勝てるのか?」 「わかんねぇけど……逃げられないならやるしかないだ……ろっと!」  ボクの手を掴んで引っ張り起こしてくれた。言う通りだ。死ぬまで戦うしかない。  武器庫に戻ると、みなヘッドギアを抱えて頭を打ち抜いていた。敵に取られてはいけないという意志が、死してなおも伝わり、ボクらに託された命の重さが深くのしかかった。  その数の多さからか、列ではなく、山のように雑然と積み上げられていた。ここで今から焼却でもするみたいに。  ボクはその山に手を合わせた。それに何の意味があるとも思えないけど。 「死ねねぇな、もう」 「ううん。元々死んだら駄目だったよ」 「あ~……それもそうだな」  そう言って、二人も、タイチも手を合わせた。  この死が、ボクらに絶望と生きる意志を与えた事になると、次の戦いで敵は思い知ることになる。  
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