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「アハハ! 何だか怒ってる! それより壮太 今日 一緒に帰らない? 夏休みの合宿前だから吹奏楽の練習 休みなんだよね」
「授業終わったら校門の前で待ってて。 クラス委員の仕事 急いで終わらせて行くから」
美里は一方的にそう言い終わると、何だかうれしそうに自分の席に戻ってしまった。
(あぁ、美里と一緒に帰るなんて久しぶりだな。 あぁ……)
俺は込み上げてくるうれしさで締まりのない、だらしのない顔になるのを必死に堪えていたのだった。
しかし、慎吾が俺のおかげだなと言わんばかりの、ムカつくほどニヤついた顔で俺の顔を指さし、俺の背中をバシッと叩いてきたときには、さっきまで込み上げてきていたうれしさの固まりをゴクリと飲み込み、スンッとした表情になっていた。
「慎吾さん? ただでさえ品のないお顔がますます品がなくなってますわよ。あ~た、アホ面(づら) 日本代表なのかしら? オホホ!」
そう言って俺が口元に手を当てて笑うと、慎吾のヤツも負けじと
「壮太さん? 先ほどのあなたのお顔も、とんでもなくマヌケ面(づら)でしたわよ。 あ~た、マヌケ面オリンピック金メダリストなのかしら? オホホホホ!」
と言ってきやがった。
そんなバカなことをしているうちに貴重な休み時間も終わり、どうしようもない退屈な授業ってのが、我がもの顔で教室に居座ってしまっていた。
しかし明日からの夏休み、1ヵ月もの長い間 美里に会えないなんて……。
夏休みはうれしいけど、うれしくない。 夏休みは大好きだけど、大嫌いだ。
俺は授業中の大半の時間を、消しゴムで作ったサイコロを転がすのと、お絵かき帳と化したノートと教科書に落書きをするのと、そして、美里を見つめる会の会長としての任務を果たすことに費やした。
ノートに描いた先生の似顔絵を隣の席の女子に見られ、その女子が「プッ!」と吹き出して慌てて口を手で押さえるのと同時に、授業終わりのチャイムが鳴った。
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