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美里がゆっくり手を挙げた。
その一言で、教室内に一気に新鮮な空気が流れ込んだのだった。
「ハイ、決まり! 決まり!」
「も~う、時間かかり過ぎ! 部活の練習 遅れたんだけど!」
「僕、塾があるので失礼しま~す」
「おい! お前ら! 美里にありが…」 「壮太 いいよ……」
そそくさと帰ろうとする連中に一言、二言 言ってやろうと立ち上がった俺は、首をクイクイッと横に振る美里に腕を引っ張られ座らされた。
「みんなの気持ちもわかるし、それにわたしって3人弟妹(きょうだい)の長女でしょ?」
「こういうの小さい頃からわたしの役目だったし、だからクラス委員とかも向いてると思うの」
「けどよ-! それにしてもあいつら…」 「壮太 ありがとう! 今日、一緒に帰ろう? ねっ!」
まだ腹の虫が治まり切らない俺に、美里がかぶせ気味にそう言った。
――学校からの帰り道、突き当りの丁の字を右に少し行くと俺の家、左に少し行くと美里の家がある。 その丁の字の突き当りに小さな古い道祖神さんがある。 双体道祖神というらしく、男女の神様が仲睦まじくしている姿が彫ってある。 その仲睦まじい姿から、縁結び、恋愛成就の神様とも言われているのだった――
俺たちは、なんだか会話が弾まないまま、でもお互いのことを気づかいながら歩いた。
「あ…… と、ところで美里さー 今日、吹奏楽の練習なかったん?」
「あ、うん…… サボっちゃった……」
「そ、そっか。 たまにはいいんじゃねー」
「う、うん……」
「お、おう……」
「あ… じゃあな 美里。 クラス委員 大変だけど…。 俺なりに応援してやっからな!」
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