第一話 日ノ國の巫女

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 太平洋戦争から約六十年。  あれほどの戦争があったというのに、未だに人類は戦争をやめることができないでいた。  満月の輝く夜、ここ『日ノ國』に新たな傭兵が一人誕生しようとしていた。 「――師匠、俺は強くなれたのか?」  まだ十歳にも満たない少年の声は平坦だった。その瞳に宿る闇は、奈落のように底知れず感情の起伏を感じさせない。ボロボロで色あせた薄手のシャツとズボンを身に着け、右手には漆黒のナイフを握り無機質な瞳を師匠へ向けていた。  隣に立つ彼の師匠は原始的な少年とは対照的で、紺色のスーツには艶があり靴は黒く上品な光沢を放っている。  人里離れた山奥、燃ゆる松明の下で少年とその師匠が夜空を眺めていた。  二年前、『日ノ國』の北に位置する『北乃国(きたのくに)』で戦争が起こった。原因は、『米進国』と『北乃国』の貿易摩擦の悪化によるもの。  運悪く家族と旅行に来ていた少年は、その戦争に巻き込まれ家族も、感情も、生きる(すべ)さえも、全てを奪われたのだ。  荒れ果てた土地を彷徨(さまよ)っていた少年が出会ったのが、傭兵業を営む師匠だ。それ以来、少年は生きる術を身に着けるべく厳しい鍛錬を積んでいた。
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